プロローグ:1
正直SFなのか、ファンタジーなのか分かっていません(そもそもSFって何だ)。
ガラララ......ガコン!
「痛ェ......」
畜生。
右手を引っ込めた衝撃でバランスを崩したのだった。しかしこれまでとは違う、確かな感触が手のひらにはあった。
身体中の痛みをじっくり堪能しながら、左手で瞼にこびりついた煤を払い、うっすらと目を開ける
澄みきった瞳に澄みきった空が映え、エルノ・二ニータはもう一度目を閉じた。
ガルデ公国8番街___通称:ゴミ捨て場。
大陸で二番目に大きな国の、いわば排泄物。それが積もりに積もり、6番目の居住区に成るべくして造られた8番街がスラム街に変貌するまでに半年もかからなかった。
統治するガルデ公は身分制を取り入れ、貴族・商人・平民・工人・下人という5階級を指定。
15人の貴族は1から5番街までの居住区、6番街の商業区、7番街の工業区の計7つを2人で分け合い、総括している。......エルノは学校に行けないし、行きたくもないと思うが、15を2で割ることはできないことくらいは理解している。
残りの1人は8番街の管理という最大の汚名を授かることになる訳で、その人こそ幼馴染の少女パーシャ・クラーチェの父親であった。
「ぷはっ! 猿も木から落ちるってのは、まさにこのことね」
隣の山から飛び降りた彼女は嘲笑混じりでこちらに手を差し伸べてくれる。
畜生とは思うものの、出っ張りによじ登る、という体に染み付いた動作を一から失敗させるのは恥ずかしい。しかしそれよりも太陽と、彼女の金髪と、彼女の笑顔と、彼女の......まあ、色々と目がくらみそうになる。
「猿ってなんだよ」
そんな気持ちを悟られまいと努めて冷静な口調で返すが、自身のにやにやが止まらずにいることの可笑しさに堪え切れなくなって、ついに声を立てて笑い出してしまった。
「ひひひっ......何で......あんたが、笑ってるのよっっ......!!」
パーシャもそれに反応し、苦しそうにしている。
これはこれで、アリかな......。
14年の人生を歩んできた身だが、12を超えた辺りで諦めはついていた。所詮下人はゴミでしかないのだと。事実、ゴミにも等しい生活を送っている自身を顧みて、もうどうでも良くなってしまっていた。
そんな複雑な事情はうんざりだ。エルノは考えることをやめ、目の前の彼女を純粋に可愛いと思うまでに留めた。
「おいっ、雨が......!」
もう一人の幼馴染、ヤノ・マーカスはいつしか瓦礫の山から手を引っ込め、空を見上げていた。
どうにか笑いをおさめたエルノもパーシャの手を軽く振りほどき、立ち上がる。
霧のような薄い雨が降りだす中、エルノは右手に握りしめた赤い宝石を見つめていた。