16話「家族の為」
タイトルを考えてなかった…のでセリフからとりました。
今、目の前に見慣れぬ姿をし、さらに見慣れぬ武器を持った、アメジストの妹である沙月希が笑顔を浮かべながら佇んでいた。
アメジストは、自身へ言われた言葉を聞き返す。
「迎えに….来た?」
迎えに来たとは一体どういうことか、そもそもなぜ沙月希はこんなところにいるのか、どうやってここまで来たのか。そもそも、沙月希なのだろうか。
姿は似ているが、アメジストの知る沙月希とは違う。
考えれば考えるほど、さらに混乱してしまう。
「あ、でもそのままじゃ駄目なんだった」
「一体…何を」
「だからね、お姉ちゃん。少し…我慢して、ねっ!」
突然、沙月希が私の懐に入り込み大鎌で切り上げて来た。
私はその鎌刃を盾でなんとか防ぎ、沙月希から距離を取ろうと背後に跳ぶが、その直後に沙月希は距離を詰め再び懐に入り、同じように斬りかかってくる。
「くっ!」
足が地面に着く前に再び懐に入られた私はなんとか盾で鎌を防ぐが、空中で衝撃を抑えることが出来ず後方へと吹き飛ばされる。
なんとか飛ばされているうちに体制を立て直そうとしたが、吹き飛ばされたアメジストへ尋常じゃない速さで迫り、アメジストに追撃を加える。
「がはっ」
刃の裏面でアメジストを地面に叩きつける。叩き付けられた衝撃で息を吐き出した。
仰向けに倒れてるアメジストの上に沙月希が跨ると、身動きが取れないようにアメジストを影のようなもので手足を地面に拘束する。
「こ…れは…」
叩きつけられた衝撃でうまく言葉を発することが出来ず、さらに思うように力が出せず拘束を解くことが出来ない。
そんなアメジストに沙月希は跨ったまま、アメジストの顔に手を添えながらぶつぶつと独り言のように囁く。
「ごめんね…もう少し、もう少しだけ我慢して。そうすれば、またみんなで、家族みんなで一緒に暮らせるように…なるから」
突然、強烈な不快感、異物感、嘔吐感に襲われ声を上げる。その原因を探ろうと歯を食いしばると同時に閉じた目を開けると、そこに映ったのははアメジストの身体に自身の手を入れてなにかを探すように身体の中を弄る沙月希の姿。
不思議なのはまるで血などは出ておらず、しかし自分の中に沙月希の手が入っている異物感があり、弄られるたびに強烈な不快感と嘔吐感が押し寄せることだった。
「さ…つ…きっ…」
「もう少し…もう少し、だから」
なんとか上げた苦し紛れの声も、沙月希は聞く耳持たず、アメジストの身体の中を探り続ける。
拘束されているため沙月希を無理矢理引き剝がすことは出来ず、まして、こんな状態で力が出るわけもなく、沙月希にされるがまま、ただ耐えることしかできなかった。
そんなアメジストに対し、自分に言い聞かせる様にもう少しと言い続け、御構い無しに沙月希の手がさらにアメジストの身体の奥まで侵入し、アメジストにさらなる強烈な不快感と嘔吐感が襲う。
「っ、はっ…ふっ、ぐっ」
「あ、みつ…けた」
「っっ───!!」
沙月希が何かを手で鷲掴みにした途端、アメジストは声にならない声を上げ、身体が仰け反る。
「これが、お姉ちゃんの力の源…凄い、泉みたいに今も湧き出してるよ」
鷲掴みにしたまま、アメジストの力を直接感じ取った沙月希は感嘆とした様子でアメジストに話し掛けるが、アメジストはただ耐える事に必死でそれに返している余裕など無かった。
「えっと確か、お姉ちゃんの力の源に私の力を流し込む…だったよね。こう…かな」
沙月希の体から黒い靄のようなものが浮かび上がり、掴んでいる手を伝ってアメジストの身体の中へと入っていく。
その直後、再び身体を大きく仰け反らしたアメジストは身体から沙月希の手を引き出そうと、沙月希の腕を掴む。しかしその抵抗も虚しく、力が入らず引き出すどころか沙月希の腕はびくともしなかった
「お姉ちゃん…抵抗…しないで」
「な、ぜ…こんなっことを…っ」
なんとか絞り出した声でアメジストは聞く。その問いに、沙月希はきょとんとした顔をして首をかしげながら答える。
「なんでって、またみんなで暮らせるようにだよ?」
「な、らっこんな事を、しなくともっ」
「こうしないと…一緒には暮らせないって、お母さんが…」
「なっ…どう、いう──っ!」
驚愕し、問いただそうとしたアメジストだったが、突然言葉を詰まらせる。苦悶の表情を浮かべたアメジストの身体から先程、沙月希の纏っていた黒い靄のようなものが浮かび上がっていた。
「もう…すぐだから…お姉ちゃん」
その靄はさらに色濃くなっていき、アメジストと沙月希はその靄に包まれ姿が隠れてしまう。
その中で沙月希は、もうすぐ家族みんなでという願いが叶う寸前という状況ですでに喜びに満ち溢れていた。
しかしそれは長くは続かなかった。
「えっ、なにっ」
突然、アメジストの体から放たれた強い光によって、2人を包んでいた黒い靄を忽ち晴らし、さらにその光は沙月希をも吹き飛ばした。
吹き飛ばされた沙月希は鎌を地面に突き刺し、飛ばされた勢いを抑えて着地する。
一瞬の困惑の後、沙月希は泣きそうな表情を浮かべながら横たわっているアメジストを見て呟く。
「どう…して…」
掠れ、消えそうなその呟きは静寂が訪れた場に微かに響き渡った。
◇◆◇◆◇
沈黙の中お互いに出方を伺い、睨み合いが続いている中、オニキスがその沈黙を破る。
「なんで…お二人がここにいるんですか」
重々しく開いたその口から出た言葉には様々な感情が入り混じっていた。
しかし、当の2人はその問いに淡々と返すだけだった。
「娘を迎えに来たのよ」
「だが、君達が居てはそれも難しいんだ」
「…どういうことですか」
「それは君達が1番理解しているはずだよ。その姿ならば尚更ね」
そう言われてオニキスは口を閉じてしまう。それは朝陽の父に言われた事に、心当たりがあるからだった。
それはティアナも同じようでオニキスに代わって指摘する。
「貴方達から感じられる、私達とは真逆の力…闇の力ってところかしら」
「正解よ。貴女は確かティアナさんね」
「私の事知っているの?」
「ええ、もちろんよ」
そう言い切った朝陽の母。その発言からおそらく失踪してからのことも知っているようだった。その事にオニキスは怒りを露わにする。
「朝陽が、どれだけ辛い思いをしたか知っていて、それなのにどうして側にいてあげなかったんですか!そもそも、どうして朝陽と沙月希に、辛い思いをさせたんですか…」
恨み篭ったその言葉は、これまで朝陽を見てきたオニキス、美咲だからこそ2人が許せない気持ちから来るものだった。
「僕達家族の、これからのためだよ」
そんなオニキスの問いに、朝陽の父は淡々と簡潔に言う。その答えを聞いたオニキスは拳を握り、今にも爆発しそうな怒りをなんとか抑えようとする。
しかし言葉からはその怒りを抑えることが出来ず自然と怒気がこもる。
「…家族のために?2人に辛い思いをさせる事が?」
次の問いに朝陽の父は答えるとこなく、目を瞑り顔をすこし俯かせる。
「なんで…否定しないんですか」
「結果的に、そうなってしまっていることは確かだからね…だが、決してそういうつもりではない事だけは言わせてもらうよ」
「…だったら、居なくなるにも理由くらいあの2人に言えば良かったじゃない、そうしたらすこしは違ったかもしれない」
「当時では話すことはできなかった。…いや話したところで分からないだろう。だが、今なら、君達にも理由が分かるんじゃないかい?」
朝陽の父が言わんとしている事。オニキスは大方の予想できていた。それは先程ティアナが言った、2人から感じ取れる闇の力。私達ガーディアンナイトとは真逆の力を持った2人を前にすれば明らかだった。
だがそれと同時に分からない事が多くあるのも事実。
頭がうまく働かず、いまいち把握しきれない。さらにこの状況では現状の整理にも頭が追いつかない。
そんな中で、さらに現状を変化させる出来事が起こる。
アメジストがいる方向で、大きな力が一瞬爆発したように膨れ上がり光の柱が現れ、そしてそれはすぐに収まった。
「あなた」
「ああ、そうだね」
朝陽の両親がお互いに確認し合うように頷くとオニキス達に背を向けて光の柱が立った方向へ向かって跳んで行った。
「ティアナ、私達も追うわよ!」
「ええ」
その2人の後を追うようにしてオニキス達もその方向へ急いで向かう。
◇◆◇◆◇
沙月希の力でアメジストの力が闇に染まるはずだった。だが、それは当の本人によって阻まれた事によってその目的は失敗に終わってしまう。
そしてそれは、沙月希にとって拒絶でしかなかった。ぼやけた視界で呆然といつのまにか変身が解けた状態で横たわっている朝陽を見つめた。
「沙月希」
そんな沙月希の側に、沙月希の父と母である2人が姿を現わした。
「お父さん…お母さん…お姉ちゃんが…」
「大丈夫よ。時間が経てばあの子もきっと…」
「2人とも、今回は退こう」
沙月希の手を引いて、去ろうとする3人の元に後を追ってきたオニキス達が到着する。
「なっ」
そこで、先程まで対峙していた朝陽達の親に手を引かれている沙月希を見つけると驚きのあまり言葉を失った。
そして、次にその後ろで倒れているアメジストとその側にいるライオンの妖精を発見し、オニキス達は一目散に駆け寄った。
「アメジスト!」
なんども呼び掛けるが、アメジストはぐったりとしたまま、返事をすることはなかった。それどころか、アメジストの変身が瞬く間に解けていき、元の朝陽の姿に戻っていった。
「何があったの」
オニキスは側にいたライオンの妖精にすこしきつい口調になりながら聞いた。
「こいつの妹だったか?そいつにやられたんだよ」
「沙月希が…嘘でしょ?」
反射的に辺りを見渡したが、3人とも姿が見えず既にこの場を去った後だった。
「しまった…」
「仕方ないわ、それよりも今はこの子をどうにかしないと。とりあえずあの女王様の元に戻りましょう」
「…そうね、そうしましょう」
そう言ってオニキスは朝陽を背中に乗せる。
「もちろん貴方も来てもらうわよ」
ティアナが、妖精に戻ったライオン達をみてそう伝えると、妖精は無言で頷く。
オニキス達は朝陽の容態に注意を払いながら出来る限り急いで、ミシュアの元へと向かうのだった。
今月の最新話更新はこれで最後となります。次の更新は来月で新章に入ります。