えいゆうのはなし
ねえ、“救世主”って、何かしら。
そう人に訊ねたなら、大抵は「歴史を変えた人物」とかそんな感じのことを答えるでしょうね。
けれども、本当にそれが、すべての“救世主”たりえるのかしら?
そうだわ、こんな話があるの。これは原文が損傷したお話を先代が編纂し直したものなんだけど、なかなかに興味深いお話よ。
むかしむかし、ある世界に、“機械の国”と“龍の国”という、戦争の絶えない二つの国がありました。
何百年も続く戦争に民は疲れはて、しかし和平を申し立てることは国の誇りを汚す、として拒否してきました。
元々何のために戦争をしていたのかも忘れ去られ、プライドだけで続いていた戦争。
そんな戦争にもある日、ついに終わりがやってきました。
戦争を終わらせたのは、“機械の国”の若い女将校の作戦でした。
“機械の国”のお得意技、機械で山を掘り、そこから一気に攻め込んだのです。
“龍の国”の民たちは、なすすべもなく捕らえられ、王様と王妃様は首をはねられました。
やがてそれから数年が経ち、女将校は“英雄”“この国の救世主”と民に呼ばれていました。
そんな彼女の寝室に、ある日、一人の女が忍び込み、彼女に剣を突き付け言いました。
「お前はこの国では救世主かもしれない。だが私にとっては悪魔だ」
それを聞いて、女将校は言いました。
「それは理解してる。私を殺せば貴女は“龍の国”の生き残りからは英雄と思われる。でも“機械の国”ではただの暗殺者、重罪人になるでしょう」
侵入してきた女は、それでも剣を収めませんでした。
彼女はずっとそのために生き延びていたからです。それを知っている女将校は言いました。
「私の首で、貴女達の気が晴れるならどうぞ」
そう言って、儀礼用の剣を手に取りました。
その後、この二人がどうなったか、知るものはいません。伝える文書も。
さて、その上で問います。
女の復讐は、果たされたと思いますか?
そもそも“英雄”とは、なんでしょうか?
……おしまい。
こんな答えの無い話は嫌いだったかしら?それならすまないことしたわね。
あら、そろそろお茶の時間ね。うちには優秀なメイドがいるから、今頃支度が整ってるんじゃないかしら。
紅茶は好きかしら?よかったら、一緒にどう?
こんにちは、あけおめです。雪野つぐみです。
今回はお題「救世主」ということで、結構いろいろ考えたのですが……
書いてる途中で風邪ひいて熱出して倒れました。
締め切り間際に、です。体調管理大事だね!
さて、近況はこのぐらいにして、いつものご挨拶を。
いつも共同で企画やってくれてる文群さん、今回のお話を読んでくださった皆様、風邪をひいてしまったときに助けてくれた(あの時はほんとうにごめんなさい)小説家仲間の先輩たちに、感謝をささげます。