ブーゲンビリアのカフブレスレット
暑そうだなぁ、とクーラーのよく効いた室内で外を眺めながら思う。
夏は苦手だけれど嫌いではない。故郷よりじりじりと焦がされるようなこの土地の熱量には辟易しているが、それでも嫌いになれそうもなかった。
「ねえ、なに見てるの」
白いドレスを着た姉が、いつの間にか傍らに立っていた。
「外。陽炎ゆらゆらしてて暑そう」
今日は年の離れた姉の結婚式だ。適当に挨拶を済ませ、特にする事もない俺はこうして控え室で外を見ている。
「逃げ水ね」
「こんなとこで油売ってていいの」
「こうして喋るくらいの時間はあるよ」
「忘れるとこだった、ドレス似合ってる」
「ありがと」
物心ついた頃には姉は家を出て寮暮しをしていた。
だから、結構な期間、長期休みに現れる親戚のような存在として姉を認識していた。
やさしくてきれいな、お姉ちゃん。
「本当は」
「うん?」
「今日、来てくれないかと思った」
「……祝いたくないけどね」
ずっと、姉が来るのが待ち遠しかった。にこにこ笑う姉の顔が見たかった。
早く夏が来ればいいと、ずっと願っていた。
ふたりで線香花火をした。
川で水遊びをした。
いまいち不器用な姉が、それでも俺のために作ってくれた炒めごはんをお昼に食べた。
好きだった。
「式、終わってから渡したかったけど」
「なに?」
「誕生日プレゼント」
ポケットに押し込んだせいで、少し箱の角がひしゃげたそれを押し付ける。
「誕生日、おめでとう」
七月二十日は姉の誕生日で、そんな日に結婚式を挙げてくれたことに感謝する。そんな意図はないのだろうけれど。
でも。
「ありがとう」
ブーゲンビリアの花言葉、「あなたは魅力に満ちている」。