貴方に祝福を。
特異点。そこが求める場所。
貴方に。
歩行は既に徐行。雪の中を進む。
渾然とした光。目の前に駅。
手をつないで歩く二人の少年。
途端、彼の右手が空を切る。友人はもういない。
探す。探す。探す。
いなくなるということは。
悲しいことだろうか。
どう思うのが正解なのか。
それが僕には分からない。
彼は友を探さない。そのまま駅へ歩む。
背中からは何も。
小さな小さなプラットホーム。
木造の屋根。空がふわりと降りてくる。
ピアノの音が鳴る。
春は雪の中に埋もれているのか。
それともどこかで寝ているのか。
それを問う相手もいない。
瞬間、列車。
ゴウと音を鳴らし空気をなぎ払う。
少年は飛び出した。
速度は彼を吹き飛ばし。
列車は既に彼方。
何もなかったような静けさは。
何処からやってきたのかを。
冬は知っているのか?
だとしたら。それは残酷すぎやしないか。
冬の温度。
きっとそれは体温で。残酷さの中に愛を見る。
愛とは何かを。
僕は知っている。
冬は張り詰めた糸のようで。
きっと触れば音が鳴るだろう。
駅へ歩く。
特異点。
いなくなった彼と。
死んでしまった彼。
どちらの続き?
煌々と降る雪。
古びた駅の色あせた椅子。
そこに座って列車を待つ。
知りたいことは沢山ある。
知らないことは、もっと沢山あるはずで。
知っていることは一握り。
それが嫌かといわれれば。
そうだとは思わない。
それは誰にも与えられた幸福。
知らないということ。
遠く雪の中に。淡く人工の灯かり。
君の左手が震えているのを感じる。
「君も怖いのかい?」
うん。僕も怖いよ。
それは知らないということは怖い。
「怖さを制すにはどうすればいいと思う?」
きっと信じることじゃないかな。
「そうだよ。それが正解」
列車が来る。轟音を響かせて。
パッと飛び出して。
僕の体は溶けてなくなる。
まるで雪みたいで愉快だ。
何処でもない此処を感じる。
これが特異点。僕だ。
彼はきっと。
いまでも列車を待っている。
ピアノの音が鳴る。
ここは銀河。
祝福を貴方に。