第18話 監獄補佐官 舞台裏その1
「殺されちゃったね。君の友達」
「ギギラ・クレシアに負けてしまったと聞いています」
「あっさりしてるね。監獄長補佐官殿には血も涙もないって噂はどうやら本当だったのかな?」
ここはギギラ・クレシアがとらわれている監獄内の厨房。
監獄長補佐官であるジェーエル・モランシーは、ギギラ・クレシアに届ける朝食を作るためにこの場所へ来ていたのだが……そこでひょっこりと姿を現した『目無し』の女に絡まれていた。
「この状況が悲しいというのは情報として理解できています。でも、やっぱり感情として受け取ることは出来ませんでした」
「最初にあった時もそんな事言ってたね。監獄長のジャンネといい、君といい、【耳なし】の信徒はおかしな人間ばっかりだ」
「あなた見ればそうかもしれません。私たち信徒は【耳なし】様の道具でしかないですから」
ジェーエルは声のトーンを変えないまま、無表情のままで豪華絢爛な料理を作った。
戦友であり、同じ神をあがめる仲間でもあったハイマ・シェパードを殺した相手の為に。
普通の人間の感性から見れば、これほど胸糞悪いものはないだろう。
ジェーエルだって、そんな事は情報として理解している。
だけど、それが感情として出力されない。
どこか他人事の様に感じてしまうのだ。
ジェーエルはふと、昨日の事を思い返していた。
初めてギギラ・クレシアと出会って、良質な食事を持って行ったのにも関わらず邪険に扱われた事。
監獄長補佐官という立場にありながら、死刑囚を使って賭け事に興じたこと。
その賭けに勝って大金を手に入れたこと。
その傍らで友人が死んだこと。
人間の感情が揺れ動くには十分すぎるほどに多くの出来事が起こっている。
でも、やっぱり心を震わすような感情はジェーエルの中に現れてはくれなかった。
「感情のない人間はおかしいと思いますか?」
「まぁ、普通におかしいと思うけど……私はそれ以上に君の在り方そのものが狂ってると思うね」
「理由を聞いてもいいですか?」
「だって君さ、感情を模索するような行動をするくせに、仕事の時はいつも『私は端末ですから』とか言って誰かの命令を淡々とこなすだけ。な~んか矛盾してるような感じがするんだよね」
まぁ上手く言えないけどと言いながら『目無し』の女はケラケラと笑う。
ジェーエルは「そうですか」と淡泊な返事を返しながら、ギギラ・クレシアに届ける料理の盛り付けを終わらせる。
「あなたの考えはさておき、私が神や監獄長ジェンネ・ダルケーの意志を伝えるだけの端末であるのは事実です。だってそれが【耳なし】様から与えられた私の役割ですから」
監獄長補佐官ジェーエル・モランシー。
彼女もまた、ハイマ・シェパードと同じく神から力を授けられている信徒である。
その力の名は【役割神託:操り人形】。
誰かの意志を伝えるため、その誰かの力を借りて代行者となる彼女の力は、いずれギギラ・クレシアに大きな牙をむくことになるだろう。




