シュークリームと栄養ドリンク≪誘惑≫
「また明日も来てくださいね!私もシフト入ってますから!約束ですよ!」
が、仕事中も頭の中で繰り返し流れていた、カズ。
ただの営業トーク?
もう、クリスマスケーキの予約が始まってたし。
約束したことになってる?
あの時、返事はしていない。
新商品のシュークリームのこと言ってたから、感想でも聞かせてくれるのか。
いや、それじゃ興味を惹かれなかったら買わない。
もしかして、桃子さんの話?
店員さんと桃子さん、仲良くて。
いや、それは無いかな。
頭の中で「約束ですよ!」が流れるたびに、いろんなこと考えていた。
とにかく今は仕事に集中しなきゃと思うが、そんな日に限って暇。
仕事に使う道具や材料が置いてある倉庫の片付け。
床の掃除やトイレの掃除をしてみたり。
どれも普段の仕事と違って、それほど集中しなくても良い仕事。
だから、余計に余分なことを考えてしまう。
(桃子さん、今日もデイリーリーフに来るかな?)
[約束ですよ]と[桃子さん]が浮かんでは消えていく。
頭の中で流れる言葉、映し出される姿。
双方と闘いながら仕事をして、どうにか終業時間がきた。
駐車場でキーを回す。
しばらく目をつむる。
あのアルバイトの子は何であんなこと、言ってたんだろう。
今日もいつものようにデイリーリーフに行けば、答えが解るかもしれない。
街路灯、商店の灯りも、ゆっくりと流れていく。
信号に捕まる回数が多い気もする。
デイリーリーフに着いたが、すぐにはエンジンを止めなかった。
ウインドウから見えるデイリーリーフはいつもと同じ。
喫煙所で電子タバコを一服。
人の流れが落ち着いたところで店に入る。
「いらっしゃいませ、こんばんは♪」。
これ以上ない笑顔で迎えてくれた。
カズはなるべく普通に、いつも通りです、って感じでデザートコーナーへ向かった。
昨日は何かが書いてある、としか思わなかった新商品の手書きPOPがやけに目立つ。
(サツマイモのクリームが入ったシューか。)
パッケージからも味が伝わる。
サツマイモのクリーム、美味しくない訳はない。
でも、カスタードと生クリームでいつもの幸せを感じたい。
口もそれを味わう準備をしている。
手に取ろうかと思った時、背後から声をかけられた。
「約束、守ってくれたんですね♪」
声の方を見ようと思った時にはアルバイトの子は真横に居た。
顔を覗き込むように、
「ぜーったいに来ると信じてました。」
彼女はニコニコしてる。
「まあね。」
務めて普通の顔で答える。
「これ、昨日食べてたこのサツマイモシュー!めっちゃ美味かったから超おすすめです!」
歳を重ね変化を嫌うようになったのか、新しいものに挑戦する気持ちを失ったのか。
理由は分からないが、[いつもの]が当たり前になっていた。
今日は彼女から背中を押された気がして、
「今日はこれにするよ。」
と、サツマイモシュークリームを手に取った。
彼女は横で嬉しそうにしていたが、だんだんとレジ待ちの列が延び始めていた。
店長の
「ナベちゃーん、レジお願いします。」
って声で急いでレジに戻っていった。
彼女、ナベちゃんって言うんだ。
店員さんは名札を付けているけど、今まで気にして見たことなかった。
サツマイモシュークリームを持ち、長くなっていくレジ待ちの列に並んだ。
彼女のレジになった。
ワタナベさん、だからナベちゃんか。
レジで会計をしながら、ナベちゃんは
「明日、感想聞かせてくださいね♪」
「わかったよ。」とカズ。
イートインで食べていくことを知ってるはずなのに。
[明日]って。
まぁ、今はレジが忙しいから、感想を聞ける状況ではないか。
いつも通り、ドリップコーヒーがカップに落ちるのを見つめる。
いつも通りではないのはサツマイモシュークリームとナベちゃん、それと桃子さんが居ないデイリーリーフ。
イートインの席に腰かけ、彼女おすすめのサツマイモシュークリームを一口。
サツマイモの自然な甘みとクリーム。
―――悪く無い。
チャイムが鳴り続けている。
普段通りレジをしている、ナベちゃん。
駐車場に向かおうと腰を上げた時、
ピロリローン・ピロリローン
入り口を見ようとしていたナベちゃんと目が合った。
軽く手を挙げ、車に向かった。




