シュークリームと栄養ドリンク≪困惑≫
いつもの時間より遅くなった。
でも、桃子さんに会えたら…
微かな望みを感じながらデイリーリーフに。
「いらっしゃいませ~~♪」
「ただいまチキンが揚げたてです、いかがでしょうか~♪」
気持ちが変わっていても、気分が変わっていても、どんな時間に来ても店の雰囲気が変わらない。
カズは子供のころ、近所によく買い物に行くお店があった。
駄菓子屋?よろず屋?
鍋や漬物桶、釣り具やら文房具、スーパーカー消しゴム、菓子パン・・・
そして、おばちゃんが座ってる前には駄菓子。
ある朝、筆箱に入っていたはずの消しゴムが見つからなくて、小銭を握りしめて買いに行くと、
「今度は無くすんじゃないよ。いってらっしゃい。車に気を付けて。」
って送り出してくれた。
帰りに店の前を通ると、赤いベンチに腰掛けてるお店のおばちゃんが
「おかえり~。いっぺんお家に帰ってから遊びに行くんだよ。」
って声をかけてくれた。
外で遊べない日は10円玉を10枚握りしめ、おばちゃんのお店へ。
駄菓子コーナーで10円玉を少しずつ使いながら日が暮れそうになるまで居ても、おばちゃんはニコニコしてた。
それに似た温かい感じもするデイリーリーフ。
そして、今日も仕事が終わった感覚になれるデイリーリーフ。
勧められたチキン、一瞬、今日はシュークリームじゃなくチキン・・・と頭に過ぎるが、やっぱりいつものシュークリームにした。
年末の忙しさからか、仕事以外の時間は思考回路を止めようとしているみたい。
頭の中も回転を諦め、いつものって答えを出したのだろう。
この時間になると、レジの前で待つ人たちは居ない。
いつもなら、笑顔の中にも隠された殺気のようなものを感じることもあるが、今は柔らかな笑顔。
レジに向かう足取りも自然に軽くなる。
「いらっしゃいませ、今日もシュークリームですね。」
レジが慣れている大学生くらいの女性アルバイト。
作業着を着たおじさんに若い子が[いらっしゃいませ]以外の言葉を話しかけてくるなんて考えてもいなかった。
店長や副店長以外から話しかけられたのは初めてかも。
アルバイト店員にこちらから声をかけるのは電子タバコの番号だけ。
ここの子たちはみんな明るく接客してくれるが、こちらから話すこともない。
向こうも、こんなおじさんに話すこともないだろう。
だから、女性アルバイトの意外な言葉にびっくりした。
「あ、あぁ、今日もね。」
精一杯、笑顔を創ったつもりで答えた。
が、それしか出てこなかった。
「イートインで召し上がられるんですよねっ。」
「はい。」
そっか、店内飲食と持ち帰りで税率が違うから聞いてるのか。
自分で妙に納得。
いつものようにゆっくり流れ落ちるドリップコーヒーをカップが満たされるまで見つめ、イートインへ。
イートインで横断歩道を行きかう人々、手前で止まっては流れる車たちを眺めながら、仕事のことで一杯になった頭の中をリセットしようとシュークリームを頬張る。
ピロリローン・ピロリローン
少し遅い時間だとチャイムも感覚が空き、BGMのように聞こえる。
ピロリローン・ピロリローン
チャイムが鳴った後、なぜか入り口を見るのが習慣になってきていた。
(桃子さん、今日はもう、来ないのかな?)
(ま、いっか。)
桃子と会えるかもしれない可能性を今日は諦めようとした。
その時、背中越しに誰かが近付いてくる気配。
… … 桃子さん!?
振り向こうかと思った、その瞬間。
声を掛けられた。
「この新商品のシュークリームもめっちゃ美味しいんですよ!」
振り向けばさっきレジで声をかけてきた女性店員さんだった。
ほんの少し前までの制服姿だった彼女。
彼女と気づくまで空白ができた。
「今日はもう上がりなんです。いつも勤務終わったら甘いもの食べて帰るんです。」
「そ、そうなの?」
もしかしたら今までも、イートインで一緒に顔を合わせていたのかも知れない。
ただ、気付かなかっただけで。
「これが楽しみで♪」
「ゆっくり食べてから帰らなきゃね。」
「はい。この新商品のシュークリーム本当に美味しいんで、味わっていきます。」
彼女もまた、ここが好きなんだろうな。
「じゃ。」
短い言葉と共にカズは席を立った。
「また明日も来てくださいね!私もシフト入ってますから!約束ですよ!」
彼女は勤務が終わったばかりなのに明日が待ち遠しそうな顔をしていた。
今日は桃子さんに会えなかった…
車のキーを回したが、
なにか引っかかる。
車内が暖まるのを待ち、デイリーリーフからゆっくりと離れた。




