シュークリームと栄養ドリンク ≪意識≫
壁に掛かった大きな時計を見る。
あと15分、か。
何度見ても時計は早く進まない。
あと10分・・・
この時間が一日の仕事の中で一番長く感じる。
新しい仕事は始められない、継続的にする仕事も10分、15分じゃ途中になりかねない。
会社は繁忙期以外、残業禁止。
終業時刻が近くなると周りのみんなは
「今日の晩飯、中華屋にしようか?」
とか
「駅前の店、新台入れ替えだけど、行ってみる?」
なんて、仕事以外のことをワイワイ喋っている。
20代の子たちの話。
ついていけない。
身の回りを掃除や片付けることしか、時間が過ぎる方法が解らない。
キーンコーンカーンコーン・・・
終業のチャイム。
みんな我先にとICカードをタッチして帰っていく。
カズは少し遅れてICカードをタッチ、駐車場までゆっくりと歩き、車に乗り込む。
しばらく車を走らせるとコンビニ。
いつものようにシュークリームを持ちレジに並ぶ。
ここまでが帰りのルーティーンになっている。
今日も夜食を買うサラリーマン、レジ待ちも楽しそうな女子高生、公共料金の払込票を手にちょっとイライラしている人、この時間帯は少々レジで待たされるのは毎回。
カズはただレジ待ち順の流れに身を任せる。
前に並んでいるのは女性。
間は詰めないように、でも離れすぎないように。
前が女性だと間隔に気を使う。
その女性は振り返るか振り返らないかギリギリの感じで背後を気にしている。
横目で見ている感じが伝わってくる。
ちょっと近すぎかな?
なんか変に思われてる?
そんな思いでいると、前の女性から声を掛けられる。
一瞬、何か分からないが≪ヤバっ≫て感じ身構えた。
「あのー、昨日、順番を譲ってもらったんで、今日はお先にどうぞ。」
少しだけ列から身体を横にずらし、笑顔でそう言ってきた。
「あぁ、じゃ遠慮なく。ありがとう。」
平然を装ったが内心、ビビってた。
でも、いまどきレジの順を譲る若い子っているんだ。
レジの順番が進むあいだ、
昨日?なんかあったかな?
ってぼんやりと考える。
彼女の手には栄養ドリンクとシュークリームがあった。
あの栄養ドリンク。
あっ!
昨日ぶつかってきた子か!
記憶が蘇った。
あまりの勢いと栄養ドリンクを持つ女の子。
彼女の姿が記憶の隅に残っていた。
今日は昨日のような勢いもなく急いでは無さそう。
でも、疲れているのかドリンクと甘いもの。
解る。
頭の中でも身体でも、疲労感が蓄積されると甘いものを食べてリフレッシュしたくなる。
皆がみんな、そうではないだろうけど、少なくともカズはそう思っている。
仕事で疲れたら休憩中にミルクの飴やチョコレート、それにクッキー。
本当はスイーツなんかを食べる余裕があれば相当なリフレッシュになりそう。
だから俺は帰りにシュークリーム食べてるんだ。
彼女は栄養ドリンク。
急に頭の中の彼女が鮮明になってきた気がした。
支払いが済めば、少しでも早く腰かけてゆっくりシュークリームを食べたい。
そう思いながらカズはイートインに目を向ける。
今日のイートインは混みあっていて空き席は少なかった。
コーヒーがドリップされている間、栄養ドリンクの彼女が気になる。
そぉーっと横目で見てみると、彼女もイートインを見つめていた。
イートインの満席に彼女はちょっとガッカリした顔を浮かべ、レジとイートインの境目でドリンクを飲み干し、ホッとした顔をしてコンビニを出ていった。
彼女が店を出た直後、窓際の席が空いたので腰かけた。
すぐに彼女の姿を追ってみたけど、人の流れの中に消えてしまっていた。
カズは何か不思議な感覚でシュークリームを頬張り、甘めのコーヒーで一息ついた。
ドリンクの彼女、明日も来るのだろうか?




