シュークリームと栄養ドリンク≪歯車≫
デイリーリーフにイチゴのスイーツが充実してくると、年末に向かうスピードが早足になる合図。
店内の賑やかなモールや電飾、きっと子供達には楽しそうに見えるんだろう。
でも大人は…
師走、このキーワードが出始めると世の中の速度が変わる。
会社員は当然のように追い込まれる。
年内に、って仕事が舞い込んでくる。
教師は期末試験に採点、通知表作成。
それに通知表を渡すときには保護者との面談。
担当教室の片付け、デスク周りの整理。
分かってはいるが時期が重なりすぎている。
誰にも任せられない仕事が増えていく。
この時期、デイリーリーフに現れる人々の来店時間も顔ぶれも変わっていく。
家族分のお弁当を買う女性。
塾に行っていたのか夜食のおにぎりを買う子。
肝臓に効くドリンクを飲む初老の紳士。
疲れ果てた顔してブラックコーヒーを買う配達員。
ただただ普通に年が重なっていくだけなのに、この時期だけ、1日、1時間、1分、1秒の密度が変わっていくように流れている。
カズもまた、
(はぁ、今日も残業になっちゃったか。ちょっと疲れたなぁ。)
そう思っていると、自然と桃子がいつも買うドリンクを手に取っていた。
「桃子さん、この栄養ドリンクをいつも飲んでるから元気出るかも?!」
いつものシュークリームと今日はコーヒーじゃなく栄養ドリンク。
今まで無かった組み合わせ。
シュークリームと栄養ドリンク。
相乗効果で、疲れが癒されたような感覚が少しだけ湧いた。
そういえば、桃子さん見かけないな。
今日、仕事立て込んで遅くなったし、もう電車に乗っちゃったのかも。
車に乗る前、外の喫煙場所。
タバコを差し込み、ランプを見つめる。
夜空に吸い込まれていく電子タバコの水蒸気を見ながら、なんで桃子さんのこと考えてんだろう?
不思議に思った。
同じ時。
桃子もデイリーリーフのことを思い浮かべていた。
なんで冬休みってあるんだろう…
学生の頃は待ち遠しかったのに、先生も冬休みに入ることが楽しそうに見えたのに。
期末試験の準備をしている桃子の手が止まった。
今日は何時の電車になるかな?
ガラス越しに見える外はもう真っ暗。
でも職員室は昼と同じような明るさ。
さぁ、もう少し。
早く、デイリーリーフにいって…
栄養ドリンク飲んで、今日は甘いものも食べたいな。
あれ?
今、何考えてたんだろう。
そんなこと考えてないで準備を進めなきゃ。
「お疲れ様、お先に。」
一人、また一人と帰っていく。
残された先生もあと数名。
咲良も、もう帰ってしまっている。
最後にはなりたくないな。
戸締りやセキュリティ。
責任が重い。
「茶戸先生、もう終わりそうです?僕、まだまだ時間がかかりそうなので、都合がついたらお先にどうぞ。」
いつもは絡みたくない上田先生が助け舟。
残りあと少しだし、明日に回そう。
桃子はそう決めて、
「お言葉に甘えて…」
挨拶を言いかけた時、
「今度、飲みに行ってくれたら、先に帰ってもいいですけどね。」
妙な笑顔で、やっぱり、ウザ絡み。
構わず、
「あとよろしくお願いします。お疲れさまでした。」
と、職員室を後にした。
せめてもの意思表示。
この間、咲良がビシッと断ったようには言えない。
学校を出て、心細い街路灯の中を歩く。
町には人の気配がない。
もう、こんな時間にデイリーリーフに寄っても・・・
そう思いながらも何故か早足になっている。
少しずつ近づいてくる店の灯り。
デイリーリーフはいつもの明るさで出迎えてくれた。
でも、今日のデイリーリーフは何かが物足りない。
人もまばら、シュークリームを持つ人は居ない。
カズさん、いつもの時間に居たかな?
こんな時間にカズさんが来ることはないか…
すべてのモヤモヤと疲労感を吹き飛ばすため、いつもの栄養ドリンクを一気に飲み干す。
一瞬だけどモヤモヤ感が晴れた気がした。
それに自宅までの最低限の栄養は補給できた。
ピロリローン・ピロリローン
入り口を見たが違う。
もう一度、チャイムが鳴るのを待ってみた。
やっぱり、違う。
刻々と近づく電車の時刻に、桃子は慌てて店を出た。




