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「ただいまー」
「おかえりなさい」
「愛!!!!!おかえり!!!」
帰ってきた瞬間、熱烈なハグでお出迎えをされる。
父親が家にいる時は、いつものことである。
「ただいま、お父さん」
「…っ」
こちらの姿を見ると、うるうるし始めたかと思いきや、またもや泣き始めてしまう。
相変わらず涙もろい姿に、思わず苦笑してしまう。
「2人とも玄関でどうしたの…って、翔、また泣いてるの?」
なかなかリビングに来ない2人の様子を見にきた母親は、娘に抱きつきながら旦那の姿を見て苦笑してる。
娘の私ですら呆れるのだから、今日一日ずっと一緒にいた母親は尚更だろう。
「だっ゛で!!こないだ、こないだまでっ……うう゛う゛う゛う゛」
「もー、この調子で今日の晩御飯大丈夫なのかしら」
「っ、まだ家出るまで時間あるも゛ん゛」
もんと、40代の男性からはなかなか聞かないセリフも、翔が言うと何の違和感もなく、むしろ可愛ささえ感じる。
「ほら愛も、制服のままじゃ嫌でしょ。着替えてきちゃいなさい。」
「はあい」
抱きつかれている腕を心苦しく思いながら引き剥がし、手洗いをし自分の部屋へと向かう。
今日は、こうと私が高校を入学したことを記念して、LMSの家族とご飯会が開かれる。
この会は今回だけでなく、割と定期的に開かれる。
前回は湊の実家でBBQをした。
推しに対しては10数年も時を共に過ごしているので、流石にもう慣れてきたが、いまだにLMSのメンバーが揃う食事会には、緊張してしまう。
(ーだって、あのイケおじ達だよ?)
LMSのメンバーは全員で5人いる。その5人とも既に40歳を超えているが、みんな見事にイケおじへと変貌した。
あの頃のかっこよさを残したまま、大人の色気と成熟さをさらに足した感じだ。
かっこいいにも程がある。
心臓のドキドキを抑えるため深呼吸をしながら、両親が高校入学の記念にくれたネックレスをつけ、部屋を出る。
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ーガチャ
「ーあ。」
「お!」
デジャヴである。
家を出る時間のため、扉を開けるとまたもや廣瀬家と同じタイミングだったみたいだ。
「愛ちゃん今日もまた一段と綺麗だね。」
「あ、ありがとうございます…」
目が合うなり、ニコッと微笑みながら褒めてくれる湊に盛大と照れながら、それはこちらの台詞ですという言葉を飲み込む。
今日は少しお高めな所に行くため、フォーマルな格好でということを言われていたのだ。
男性陣はみんなスーツなのだが、もう、本当にかっこいい。湊はシームレスの眼鏡をかけており、それがさらに大人の色気を醸し出しまくっている。
(ー流石おしゃれ番長だ。)
「ふ、翔も今日はかっこよくきめてんじゃん」
「そりゃあ愛娘のめでたい日だからな!…って今日はって何だよ。」
むーっとむくれてる翔は、センター分けのようなスタイルで、いつもは隠れているおでこがこんにちはしている。
滅多に見ないスタイルに、久々に胸がキュンとする。
(ーかっこいいのに可愛いってどういうこと????)
湊と翔の相変わらず仲良しなやり取りをにこにこと眺めていると、後ろからこうが出てくるのがみえてきた。
(ーおぉ。)
こうも、スーツ姿だった。髪の毛はオールバックスタイルで前髪を少し垂らしている。父親の影響もあり、おしゃれが好きなこうは父親と同じ、シームレスの眼鏡をかけている。
…めちゃくちゃかっこいい。
「…っ。」
こちらを見て少し驚いた様子のこうだが、すぐ目を逸らされてしまった。
(まぁ私がこういう格好しているのも珍しいもんね。)
普段おしゃれをしない私にしては珍しく、髪の毛を巻いてハーフアップにしている。
イヤリングとピアスをつけ、黒のシフォンワンピースを着ている。
まぁ、めちゃくちゃに可愛く仕上がっている。
「あら!愛ちゃんまた一段と綺麗ね!!」
こうの後に続いた、ショート美女が私の姿を見て、先ほどの湊と同じように褒めてくれる。
湊の妻であり、こうの母親である。
湊の奥さんもまた、一般人かと疑うほどの美形である。
末広二重に少しつり目で、鷲鼻の下の口元にはほくろがあり、セクシーさも足されている。
人見知りの湊の性格とは真逆で社交的で明るく、さっぱりとした性格をしている。
しかしその美貌には本人はさほど興味がないようで、こうやって着飾っている姿を見るのは珍しい。
「…ありがとうございます。奈子ちゃんもとっても綺麗です。」
「きゃー!こんな美人で可愛いお嬢ちゃんに褒めてもらえるなんておばちゃん嬉しいわぁ。」
「…奈子はいつも綺麗でしょ。」
「はいはい」
こちらの言葉もちょけた感じで返す奈子ちゃんは、湊の激甘台詞もいつものことのように軽く流している。
こんなことができるのは、奈子だけだろう。
その間も視線を感じていたが気づかないふりをしつつ、その視線の方へと目を向ける。
「こうも、かっこいいね。似合ってる。」
「…うっせ。」
また目を逸らされてしまった。
「…もー、また愛ちゃんにそんな態度とって。愛想尽かされちゃうよ?」
「…なっ。」
「そうだぞー。大切な人には素直に言葉を伝えないと。」
「〜〜っ、遅刻するだろ、早く行こうよ。」
両親から責められ更に耳を赤くしたこうは、この場から逃れるように誰よりも早く先に行ってしまった。
「ごめんねぇ愛ちゃん」
「え?」
「煌己よ。素直じゃなくって。」
「あぁ、はは。まぁいつものことなので。気にしてないです」
「…ごめんねぇ本当に。本当は愛ちゃんのこと、誰よりも大切に想ってるハズだから愛想だけは尽かさないであげてね。」
「そんなこと、天地がひっくり返ってもないと思います。」
「あらそう?」
素直な気持ちを言うと、嬉しそうに奈子ちゃんは笑った。
「まぁ寂しくはあるけどなぁ。」
「え?」
「あ、いや何でもないです。」
昔は、自分が着飾るといち早く褒めてくれたのは、こうだった。
お姫様みたい、とっても可愛いと恥ずかしげもなく沢山褒めてくれていたのだ。
流石に高校生になった今でもストレートに褒めて欲しいとは言わない。けど、やはり昔と比べると差がありすぎて少し寂しさを感じてしまうのも、仕方ないだろう。
まぁでもあのこうの性格だ。今はもうそういうものだと割り切っている。
昔のことに思いを馳せながら、家族と合流し、目的地へと向かっていった。




