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誰かに頭を撫でられる感覚がする。

大きくて、あったかい手。この心地よさを、私は知っている。


「〜♪」


耳元で心地よい鼻歌が聴こえてくる。

このリズムも、聞き覚えのあるものだ。


(ーそうだ、これは)


よく、(推し)が機嫌がいい時に歌っていた鼻歌だー。


「…」

「あ、おはよう愛。」


声がする方へと顔を向ける。


ードガン!


「…て、」

「て?」


(天使かと思った…!!)


地毛の茶髪は、朝の光に照らされて透き通っていて、まだ向こうも寝起きだったのだろう。寝癖が所々跳ねているのが可愛らしい。

胸元も少しはだけており、セクシーな鎖骨とその下には可愛らしいほくろ(そんな所にほくろがあったんだね…!!!)が顔を覗かせている。

寝起きには少々刺激的すぎる視覚的暴力を浴びて一気に目が覚める。


「愛〜?パパの可愛いお姫様はまだ夢の中なのかな?」


ードガン!


(……ちょっとその言葉、録音させてくれないですか…。)


天使と危うく言いかけた言葉も、向こうは寝ぼけてるんだといい感じに受け取ってくれたようで、安堵する。


「…おはよう、パパ。」

「おはよう、愛」


ぎゅーっとハグをされ、ほっぺにチューからの手を繋がれるという3コンボをかまされながら、一緒にベッドから出る。

 

「2人ともおはよう。朝ごはんできてるよ〜。」

「「はぁい。」」


ご飯の前に顔を洗おうと、2人でそのまま洗面所へ向かう。

鏡の前へ立つと、そこには幼いながらも既に顔の造形が整っている女の子がうつりこんだ。

ぱっちり二重に、父親のヘーゼル色の瞳を引き継いでおり、色素が薄いのか、茶色のふわふわした髪の毛。肌は陶器のように白く透明で、口元は口角が少し上がっていてかわいらしく、小さなホクロがついている。


(ー遺伝子って本当に強いな。)


今の私である。


「はい、じゃあお顔パシャパシャしようね〜。」


推し…いや今は父親である人の、赤ん坊に話しかける口調に内心悶えながらも大人しく従い、顔を洗う。


「愛はすごいねぇ。もうひとりでおかお洗えるようになったんだねぇ。」


優しく顔を拭かれて撫でられながらこの幸せを噛み締める。


「じゃあご飯食べよっか。」

「うん!!」


ー何がどうしてこうなったのかはさっぱりわからないが、私はどうやら、推しの子どもとして生まれ変わったらしい。


(いやどういう確率?これまでライブの神席とかオフイベに奇跡的に当たったりしたこともあったけど、その比じゃなさすぎる。)


前世の最期の記憶が推しの結婚発表を報道でみていたところだったので、恐らくそこで私の命が途絶えたのだろう。

そして、前世の有り余った運を使い果たして推しの子どもとして生まれ変わり、3歳を迎える直前に、唐突に自分の前世を思い出したのだ。


ー推しが、パパ…。


オタクが作り上げた妄想なのではないかと何度も自分の頭を疑ったが、これは紛れもない現実であり、真実であった。


(まさに、『現実は小説より奇なり』だなぁ。)


前世を取り戻してもうすぐ一年ほど経つが、いまだにこの幸せ(ファンサ)の数々には慣れていない。


先程の朝をご覧いただいたのでお察しだとは思うが、毎日がオフイベ祭りだからである。

心臓がいくらあっても足りないこの幸せな日々を送り続けているわけだが、この事実は隠し通さなければいけないこともわかっていた。


もし自分が推しの立場だったら、たとえ偶然であろうとも、昔自分のことを推してくれていた人が自分の子どもとして生まれ変わっていたと知ったら、流石に、引く。ドン引くし何なら恐怖を覚える。


何より、向こうは娘として接してくれてる以上(当たり前だが)、こちらがよこしまな気持ちを抱くのも罪悪感が半端ない。

先程慣れていないとは言ったけど、これでも当初に比べたらだいぶ落ち着いていられるようになったと思う。


それに、前世を思い出す前の私もきちんと存在しているのだ。

凄く不思議な感覚だけど、推しを推しとして認識していると、推しではなく『父親』として認識している()()()の両方がいるのだ。


(ーまぁ慣れるまでは、この神ファンサの日々を楽しませてもらおうかな。)


前回の人生は比較的短い生涯だったので、これくらいなら許される…はずだ。


色々考えている間に髪型まで可愛く仕上げてもらったわたしは、父親と共にリビングへと向かった。

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