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おかしい。
「……こう?」
「……ん」
おかしい。
「帰らないの?」
「……ん」
こうの様子が、おかしい。
あれから結局話の輪にも加わらなかったこうの元へと行くと、話しかけてもどこかずっと上の空で、まるで魂が抜けているかのようだった。
(暫く驚いた顔から戻ってなかったし。)
「…私一回荷物取りに戻るね。」
「……ん」
教室へ戻ろうとすると、ガタリと音がし、こうが立ったのがわかる。
(あ、着いてくるんだ。)
どうやら話は聞こえてるらしい。
けどやはり、どこか上の空で、そこから一言も発さず、私達は荷物を取りに向かった。
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「…じゃあ、また来週」
「…、おう」
教室から出た後もこうはずっとあの調子で、流石に心配になる。
「…こう」
「…ん」
「大丈夫…?」
「…っ」
(えっ)
こうが家の中へ入る瞬間、ようやく目があったが、
(…泣きそう、だった?)
こうの目がうるうるとしているように見えたのは、気のせいだったのだろうか。
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「えっ、熱ですか?」
最後の表情が気になったので、分かれた後こうへLIMEを送ったものの、一向に既読もつかず、結局心配で休日だけど会いにきた私だったが、
「そうなの。まぁ多分いつものやつだからそんなに心配しなくても大丈夫だと思うけどねぇ」
「…そうなんですね。」
どうやらこうは熱を出してしまったらしい。
奈子ちゃんの言うとおり、こうは昔から定期的に熱を出していた。
大抵1・2日すれば治るのだが、昨日の様子が気になっていたので、無理を言って、様子をチラリと見せてもらうことにした。
ーコンコン
「…失礼しまぁ、」
こうの部屋に入るのいつぶりだろうと思いながら、寝てると思いこっそり扉を開けると、
「………」
そこにはこんもりとした布団の山があった。
(ーいや、こうか。)
恐らくベッドの上で丸まっているのだろうこうの、シルエットがあった。
「…こう?」
もしかして起きてるのかと思い声をかけると、その布団の塊がビクッと動く。
「…体調、大丈夫?」
声をかけながら、段々塊へと近づいていく。
「…こう、布団被って暑くない?」
そう言ってベッドの側までいくと、塊がまたモゾモゾと動き出す。そこからぴょこんと顔を出したこうは、
「えっ」
「……ずっ」
涙を目にいっぱいためて、ぶすくれていた。
「えっ、こう本当に大丈夫?」
「〜〜〜〜」
ボソボソとこうが話すけど、マスクしてるのもあって全然聞こえない。
「結構熱あるのかな…。取り敢えず横になる?」
そう言いながら熱を測ろうと、おでこに近づけた手をぱっと握られる。
(あっっつ。)
これはめちゃくちゃ熱がありそうだ。早くこうを寝かせてあげないと、
「…た。」
「?」
「あい、俺に嘘ついてたの?」
「え?」
「〜〜っ」
こちらとしては聞き返しただけだったが、違う意味で捉えたのだろうか、遂にこうの目から涙が溢れ出てきた。
高熱もあってか、いつもより幼い様子のこうが泣いてることで、さらに幼くみえる。
ぽろぽろ流れる涙を拭いても、いつもだったら絶対に拒否るだろうに、今は怒らずにその行為を受け入れている。
(というか、嘘って?)
「ごめんねこう、」
「〜〜やっぱりっ、」
(あああ、またさらに泣いちゃった)
「あっごめ、ちが、違うよこう、ごめんってそういうことじゃなくて、」
「……ぐすっ」
「…嘘って?私心当たりが全然なくって」
そういうと、こちらをきっと睨んできたが、ほっぺも真っ赤にしながら涙をぽろぽろと流していると、怖さよりも可愛らしさが勝ってしまう。
今のこうは、どちらかというと幼い頃の雰囲気にとても似ている。
こうを寝かせ、背中をぽんぽんたたいていると、向こうも落ち着いてきたのか、眠そうにしながらも、少しずつ話し始める。
「昔、言ってたじゃん」
「?」
「俺様がいいって」
「えっ…。………あぁ」
恐らく小学生の頃だった気がする。
当時流行っていた恋愛ドラマで、俺様系の主人公か心優しい脇役のどちら派かという話になった時、圧倒的に俺様派が多かったので、私もそれに合わせていた記憶を思い出した。
(…確かにあの時、こう聞いてたなぁ。)
そして、昨日のように、驚いた表情をしていた気がする。
(でもそれが、どうしたんだろう)
「……おれ、…それからおれさまになろうって、」
「…うん」
「…がんばって、たのに、」
「…うん」
「あいちゃんの、すきな…タイプになるぞ…って、」
「…うん?」
「……がんばってたのに、」
「…え?」
突然の爆弾発言に心が追いついてない私の様子に気づかず、眠気と戦いながらこうは話し続ける。
「…あいちゃんは、」
「ハイ」
「…あいつがすきなの?」
「アイツ…?」
「…せた。」
「えっりお?りおは人として好きだけど、」
「…っ」
「れ、恋愛とかではないよ全然!!」
「…ほんとに?」
「っほんとほんと!」
「……そっかぁ。なら、よかっ……た……」
ードガン!
一瞬また泣きそうな顔をしたが、恋愛ではないと伝えた瞬間、ふにゃっとした笑顔を浮かべたこうは、そのまま夢の中へと旅立ってしまった。
(ええええええええええええええ!?)
こちらの心境などつゆ知らずに。




