1-9
「セオドア。まだ揉めていたのか?」
重苦しい雰囲気を切り裂くように、
1つの声が地下通路に木霊した。
足音はひとつ分だけだった。
それなのに抜き身の剣を構えていた騎士たちが、
はっと背筋を正す。
ランタンの光の端に、長身の男が現れる。
白銀の外套、胸に刻まれた王家の紋章。
王国騎士団長――
この場で、ただ一人“王命そのもの”を帯びる存在。
「……団長。」
セオドアが息を呑む。
騎士団長は、まずミアを見た。
次に、血に濡れた青年を見た。
その視線には、嫌悪も恐怖もない。
ただ“理解しようとする目”だけがあった。
「君が、“鳴かないカナリヤ”か。」
ミアは言葉を持たないまま、ただ瞬いた。
そして団長は、アルドに向き直る。
「この娘は、ここには残さない。
外へ連れ出す。
――生きたまま、お前と共に"光"の下へだ。」
アルドの瞳が、わずかに揺れる。
「だが、お前が剣を抜けば、
この娘は“闇”に置かれる。
それでも、構わないか?」
それは命令ではなかった。
脅しでも、取引でもない。
ただ一つの事実を、静かに置いただけだった。
膠着するかと思いきや、
剣に手をかけていることを気にせずに
血濡れの青年の袖をクイッと引っ張る細い指。
--アルド。
--ずっといっしょ。
青年の髪と瞳と同じ色の布を首元に。
頬に残る殴痕がある少女はいない。
変わっていることの方が多いはずなのに、
彼女はアルドを見てこれまでのように微笑んだ。
その微笑みを見てアルドは、
「絶対にミアと俺を引き離すな。」
そう一つだけ呟いて、剣から手を離した。




