1-8
地下の通路に、鉄靴の音が増えていく。
壁に反響するその足音は、
地上の喧騒よりもずっと冷たかった。
きっと騎士団長がここの支配人を無事に連行できたということだろう。
勝負に出る時か。
覚悟を決め、セオドアは一歩前に出る。
「彼は王国騎士団が“確保”する。
…保護対象である君とは別に。」
ミアは一瞬だけ瞬きをして、指を動かそうとしたが、その場を重苦しい雰囲気が包み込んだ。
セオドアはハッとして視線をアルドへ向ける。
血に濡れた青年は何も言わずただ立っている。
剣に手をかけたまま、
抜こうとはしていないはずなのに、
ここまでの重圧感がでるとは。
セオドア達の背中に冷たい汗が流れる。
「……ミアは、置いていかない」
低く、しかしはっきりとした声だった。
怒鳴りでも、威嚇でもない。
それなのに、通路の空気が一段沈む。
セオドアは一瞬、言葉を失う。
「ここに置いていく訳ではない。
……だが、彼女は闘技奴隷ではない。
王命により“保護”される立場だ。
君とは――」
「それがどうした?」
静かに、アルドは言った。
剣にかけた手は動かない。
一歩も前に出ない。
ただ、“譲らない”という事実だけが、
その場に立ち上がる。
「ミアが行かないなら、俺は、どこにも行かない。」
それは交渉ではなかった。
選択肢の提示でもなかった。
“そう在る”という宣言だった。
何とかして連行せねばと焦った騎士団員の何名かが
セオドアの静止を無視して剣を抜く。
ミアが、はっとして指を動かす。
――やめて。
アルドは一瞬だけ視線を落とし、
それから、ミアを見る。
血と泥にまみれたその顔が、
彼女を見る時だけほんのわずか、
柔らかくなる。
「お前がいない場所で生きるくらいなら、
ここで死ぬ方がまだマシだ。」
「それに…お前に触れるなら、全員、
ここで終わる。」
ミアの指が、途中で止まった。
言葉にならない声が、喉の奥で揺れる。
セオドアは、その光景から目を逸らせなかった。
剣を握る“化け物”ではない。
ネリネを血で染めた“救い”でもない。
ただ一人の少女に縋りつくように、
世界そのものを拒絶している青年が、そこにいた。




