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幸せな思い出  作者: 厚揚げさん
王都
43/43

5-8

その時は静かに、

しかし、

突然訪れた。


王城の午後は、時間がゆっくりと流れていた。

高い天井に反響する足音。

磨き上げられた床に落ちる、規則正しい影。

そのすべてが、

“ここでは、正しくあること”を

求めているようだった。


「――王命を伝える。」


静かな声が、部屋に落ちる。


侍女達が控える中、

一人の文官が一歩前に出た。


「ミア殿は、今後“王城預かり”として、

別室にて教育を受けていただく。」


「礼儀作法、文字、刺繍、会話法。

王城に相応しい在り方を学ぶための措置である。」


それは、これまで彼女がしてきたことを

「より相応しい形」に整えるためだとでも言うように。

文官は頷きをひとつ落とす。


「それに従って、

アルド殿とは必要な時のみ面会を許可する。」


空気が、ひび割れた。


「……何だ、それは。」


アルドの声は低く、

しかし、刃のように鋭かった。


「“世話役”が、“王城の娘”になるだけだ。」


文官は淡々と続ける。


「彼女はまだ、

"ノクティアの輝き"の横に立つには

相応しくないとの殿下の判断だ。

貴殿の傍に置くのは、時期尚早かと。」


その言葉に、

ミアは一瞬だけ瞬きをした。


そして、

ゆっくりと指を動かす。


ーーアルド。


彼女は、振り返って微笑んだ。


ーー大丈夫だよ。

ーー少し、離れるだけ。

ーー私、

ーーちゃんと戻ってくる。


その仕草は、

地下で見せていた“安心させる指”と、

何も変わらなかった。


「……違う。」


アルドは、低く唸った。


「それは、“離れる”じゃない。」


「……奪う、って言うんだ。」


文官が眉をひそめる。


「貴殿は、

殿下の庇護を受けている身である。

その口ぶりは――」


「黙れ。」


言葉は短く、

しかし、確実に空気を切り裂いた。


アルドは、

ミアの前に立つ。


まるで、

世界そのものから、

彼女を隠すように。


「ミアは、

誰の“もの”でもない。」


「王のものでも、国のものでも、

“ノクティアの輝き”の横に立つ存在でもない。」


――そもそも、

“ノクティアの輝き”とは、誰のことだ?

まさか俺の事か?


腹立たしさを宿した琥珀の瞳が鈍く光り、

舌打ちと共に、その言葉が空間に落ちた。


「ミアは俺の隣にいる。」


それだけが、

彼の“世界”だった。


ミアは、

彼の背中を見つめてから、

そっと、その腕に触れた。


ーーアルド。

ーー私は、大丈夫だよ。

ーー貴方がいるって、知ってるから。


その言葉は、

彼を縛るためのものではなかった。


けれど――


この世界は、

“知っている”だけでは、

守れない。


アルドは、

初めてはっきりと悟った。


この王城は、

ネリネよりも、

ずっと静かで、ずっと巧妙に、

“奪う”。


だからこそ。


この場所から、

逃げなければならない。


彼の胸に、

その決意が、

ゆっくりと、

だが確実に根を張った。

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