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4-4

馬車の中。

夕方の光に包まれたミアが、

はしゃぎ疲れたのか眠そうに窓を眺めている。

アルドはその横で、

彼女の頭を自身の肩に引き寄せていた。


セオドアは一度唇を湿らせてから口を開いた。


「……実は、王都から正式な要請が来ている。」


向かいに座る二人の視線がセオドアに集まる。


ーー要請?


「ああ。」


「《ネリネの円環》が誇った闘技者を、

一度見てみたいと…。」



静寂が広がる中、

セオドアの脳裏には一日の出来事が、

断片のように浮かんでは消えていった。


火を吐く大道芸に、思わず身をすくめた顔。

次の瞬間、舞い落ちる紙吹雪に、

子どものように目を輝かせた横顔。


路地で泣く幼子の前に膝をついて手を握り、

懸命に“安心”を伝えていた指。


人波に呑まれそうになった瞬間、

何も言わず差し出される、影のような腕。

そこに躊躇なく身を預ける、小さな背中。


そのすべての隣には、

必ず琥珀の青年が立っていた。

守るように。

囲うように。

それをセオドアは見つめることしか出来なかった。



アルドは、

ミアの髪に顔を埋めたまま何も言わない。


娘は瞬きをひとつしてから、

騎士の男を見てゆっくりと指を動かした。


ーーそれってアルドだけ?

ーー私は行っちゃダメなの?


その問いは、

責めるようでも、縋るようでもなく、

ただ“確かめる”ための形をしていた。


セオドアは、一瞬だけ目を伏せる。


「要請に書かれているのは、

“闘技奴隷アルド”だけだ。」


ミアは、少しだけ考えるように瞬きをしてから、

アルドの腕の中で身体を起こした。


そして、

セオドアではなく、アルドの方を見た。


ーーじゃあ、行かないね。


あまりにもあっさりとした指だった。


アルドが瞬きをして、ミアを見る。


ーーアルドはきっと行きたくないんだよね?

ーー私も私が行けない場所に、

ーーアルドに行って欲しくないよ。


その言葉は、

疑問でも提案でもなかった。


“当たり前”を口にしているだけかのように

淀みなく指は動く。


ーー私ね、今日すごく楽しかった。

ーー外ってきれいで、

ーー甘くて色んな音がして、

ーーちょっと怖くて。


ーーでも、

ーーアルドが隣にいるなら、

ーーどこでも大丈夫だって思えた。


ミアは、そっとアルドの胸に指を当てる。


ーー私はアルドみたいに、

ーー貴方を守れないけれど。


ーーアルドも同じように

ーー思ってくれてると嬉しいな。


私が行けない場所に、

アルドが無理に行く意味もないよ。


そこで指を止めて、微笑んだ。


セオドアは何も言えなかった。

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