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4-2

「今、少しいいだろうか。」


いつもの騎士服に身を包まず、

どこかの良家の息子のような服を着たセオドアを見て、

ミアはキョトンとした顔をした。


ーー大丈夫だよ。

ーーその格好珍しいね?


「ああ……。

その、君達が良ければ1番近くにある街にでかけないか?」


ここに君達が来てから大分時間が経ったけれど、一度も砦の外に出ていないだろう?


続けるセオドアの目に

娘の少し緊張したような笑顔が写った。


ーー行ってもいいのかな?


ミアの指は、アルドに向かって動く。


「ミアが行きたいなら、俺も行く。」


青年の声には、ためらいも期待もなかった。

ただ“そうする”と決めているだけの、

事実を告げる響きだった。


けれど、その言葉に嬉しそうに頷いた彼女は、


ーー沢山迷惑を掛けちゃうかもしれないけれど。

ーーお願いします。


セオドアに向けて頭を下げた。


男は一瞬だけ言葉を探すように

視線を泳がせてから、

柔らかく、しかしはっきりと告げた。


「……一つ、お願いがある。」


アルドが視線を向ける。


「街では、その顔を少し隠してほしい。」


言葉は丁寧だった。

だが、それは“提案”というより、“配慮”に近い響きだった。


「噂というものは、思った以上に広がる。

君を知る者が、どこにいるか分からない。」


「怖がらせるつもりはない。

ただ――

今日は“普通の外出”にしたいんだ。」


アルドは数秒、沈黙した。

そして、短く頷く。


「……分かった。」


そもそも、この顔に価値など感じていない。

「好きにしろ」とでも言うように、

彼は美麗な顔をわずかに歪めた。




石畳の道に、昼の光が降り注いでいた。

人の声、馬車の音、焼きたてのパンの匂いーー


馬車を降りた先は、

ネリネとも砦とも違う雰囲気に包まれていた。


ーーすごいね!??

ーーあれが噴水ってやつ!??


束ねた髪を下ろし、

花模様があしらわれた透けるレースの被り物を身につけたミアの指は

忙しなく、大きく動いていた。


「ああ。あの噴水には鯉も泳いでいる。

近くで見てみよう。」


セオドアは、

予想以上に喜ぶ娘をみて微笑ましく、

苦しく感じた。

目線を彼女の横にやると、

深い色の外套をまとい、

フードを目深に被った青年が立っている。


琥珀の瞳も、美しい輪郭も、

影の中に沈められている。

それでも隠しきれない長身と存在感だけが、

彼が“普通”ではないことを静かに語っていた。



ーー鯉ってこんなに色があるの!?

ーー二人はどの子が1番可愛いと思う?

ーー私はね、このオレンジの子。


キラキラした笑顔で彼女が紡ぐ。

青年は、興味なさげな顔をしながらも真剣に考え出したようだ。


セオドアはより近くで鯉をみるために、

歩き出した。


ミアもそれに続こうとして、

縁石に足を取られ、小さくよろめく。


咄嗟に伸ばしたセオドアの手を追い越し、

その肩を、影の中から伸びた腕が静かに支えた。


「……気をつけろ。」


低い声は、

街の喧騒の中ではほとんど溶けるほど小さい。

それでもミアは、すぐに笑って頷いた。


セオドアは、その何事もなかったような笑顔を、

自分の手が届かなかった事実ごと、

ただ黙って見つめていた。


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