3-8
あの後、壮年の男は三人の元に近づき、
先程までの異様な空気などなかったかのように.
「今日はここまででいい。部屋で休んでくれ」
と、何でもない顔で言った。
その言葉を受けたセオドアは、
痛む腕を庇いながら二人を部屋まで送り届ける。
扉が閉まる、その最後の瞬間まで。
こちらの痛みを気にするミアの眼差しを見て、
何故か胸が締め付けられた。
同時に、
背中に突き刺さる濁った琥珀の視線を、
確かに感じた。
明るい室内。
娘を抱きしめて離さない腕。
白い指が動く。
ーー怪我は無い?
ーー大丈夫?
「……。」
何も言わず抱きしめる力が強まる。
ーーアルド。
ーーずっと守ってくれてありがとう。
「別に俺がしたいことをしているだけだ。」
ーーそれでもだよ。
離さない腕にそっと手のひらが添えられた。
乾ききらないインクの匂いで満ちた、
冷たい光の差し込む部屋。
正義を表す騎士服を着た男が二人。
「群衆が騒ぐのを分かるつもりはなかったが、
確かに、化け物じみた強さだったな。」
腕は大丈夫か?
壮年の男はカラカラと笑いながら話す。
セオドアは鬱血が残る手首をそっと隠した。
「上手く使えれば、いい"兵器"になる。」
「我らが王国、ノクティアは――
より一層、平和の象徴として“輝く”だろうな。」
セオドアは、言葉を返せなかった。
あの薄暗い地下の光の下、
小さな手に、
「守ってくれる」とつづられていた青年が
今、この部屋では
“兵器”と呼ばれている。
それを否定する言葉が、
喉の奥で、
どうしても形にならなかった。




