3-7
「今の、真剣だったら死んでたよな……。」
「なんだあの動きは……。」
「この後は?」
周囲のざわめきを気に止めることないアルドは、
騎士団長に暗にもう終わりかと確認している。
「想像以上だな。
これは鍛えてもらいがいがあるぞ。」
壮年の男は、次々と騎士を円内にあげていく。
「気分は悪くなっていないか?」
先程までの模擬戦の余韻が抜けきらないまま
セオドアは、隣の娘へと声をかけた。
ーー私はネリネで慣れてるから。
ーー大丈夫。
動じることのないミアを見て、
セオドアは目を丸くする。
「てっきり貴方は闘技を見たことないのかと。」
ーーアルドの闘技は本当に見たことない。
ーーでも、あそこで育って
ーー闘技を一切見ないのは無理だよ。
アルドは見せたがらなくなったけど、
私は、血だって平気な側の人間だよ。
模擬戦を見つめるミアの指は動き続ける。
ーーアルドって強いね。
「正直、強いなんて言葉では……。」
ーー全部私のためなの。
ーー私がいたから…。
そこで俯き、
指を止めた彼女が泣いているように見えて。
セオドアが思わず手を伸ばそうとした時。
「もう止めだ。」
騎士と向き合っていたはずの青年が
セオドアの手を強く握っていた。
気づけばミアにだけ注意を向けていた
セオドアが円内に視線を戻すと、
相手の騎士は
どうやら意識を失っているようで
周囲の人間が助け起こしている。
パッと顔を上げた娘の目に涙は無かった。
「すまない!
女性の手を無断で掴もうとするなど
私はなんてことを!!!」
セオドアは申し訳なさと自分への困惑、
一段と強まる手の痛みに顔を顰める。
言葉を紡ぐ指が、
慌ててアルドの手を掴む。
彼女のパクパクと動く口が焦りを伝えている。
暫く力を込めていた
アルドの指が、ゆっくりと緩んだ。
「触るな。」
それだけだった。
怒りでも、警告でもない。
事実を告げるような、平坦な声。
ミアは慌てて首を振り、
両手で大きく否定の形を作る。
――大丈夫!
――セオドアは、私を心配してくれただけ。
その指にアルドは一瞬だけ目を落とす。
「……分かっている。」
だが、その“分かっている”は、
納得ではなく、理解に近いものだった。
“善意”であろうと、
“思いやり”であろうと、
ミアに向けられる“手”である限り
反射的に遮断する。
それが、アルドの在り方だった。
セオドアの手首には、
青く鬱血した跡が残った。
それを見て、
更に困った顔をするミアをまるで庇うように、
あるいは囲い込むように、
青年は彼女をその腕に捕らえた。
「なるほど……。
あれが化け物を閉じ込める"カギ"か。」
その様子を白銀の外套を揺らす壮年の男が
静かに見ていた。




