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馴染みのある食事のはずなのに、
何故か味のしなくなった料理を
セオドアは黙って噛み締めていた。
周囲の者は皆笑いながらパンを裂き、
湯気の立つ椀を傾けている。
それはこの砦にとって、
何一つ特別ではない“いつもの朝”だった。
--本当においしい!
--これどうやって作るのかな。
--私が作ったらアルドは食べてくれる?
「ミアが作るなら何でも食べる。」
娘の指は楽しげに弾む。
アルドは彼女の皿が空きかけているのを見ると、
自分の前に残った料理を静かに押しやった。
まるで、
最初から“彼女の分”であったかのように。
細い指が感謝の言葉を綴った。
セオドアの喉が、ひくりと鳴る。
突然アルドが剣の柄へと手をかけたその時、
食堂の空気が変わった。
騎士が一斉に立ち上がる。
背筋の伸びる音。
椅子が擦れる音。
低く息を飲む気配。
「…団長だ。」
「どうして朝から食堂に?」
「ほら、例の……」
誰かの囁きが波のように広がる。
その男はざわめきを連れて、
三人が座る机へと歩を進めてきた。
「食事は口に合うか?」
ああ、セオドア。
別に立たなくていい。
手を軽く振り、騎士団長が話す。
ミアは微笑んで頷き、
アルドは柄からは手を離したものの
何かあればすぐ動けるように警戒を緩めない。
セオドアは目礼を返した。
三人の様子を見て、
壮年の男は鷹揚に笑い、
食事中にすまないがと話しながら席に着いた。
「アルドに少し頼みがある。
ここでは朝食後に騎士達の鍛錬があるんだが、
そこで模擬戦をしてほしい。」
「どうも最近騎士達の力不足が目に付いてな。」
苦笑と共に頬をかく素振りをみせる男は、
抜け目なく青年の様子を見つめていた。
王宮は、
ネリネから連れてきた“闘技奴隷”の実力を、
具体的に示せと迫っている。
危険である以上、
曖昧なまま囲っておくわけにはいかない。
それに―
いつまでも正体の知れない存在が砦にいれば、
騎士達の緊張も緩まらないだろう。
そう踏んだ騎士団長は、
アルドを「未知数」のままにしておくことを
許さなかった。




