2-6
砦の回廊は、夜になると石が冷える。
松明の火が、規則正しく影を落としていた。
「……本当に、
あの娘一人で彼は収まるのでしょうか。」
セオドアの問いに、
騎士団長は足を止めずに答える。
「収まる、というより自ら縛られる、だな。
あの青年は
彼女が傷つく未来を選ばないだろう。」
「“カギ”ということですか。」
「そうだ。支配人が言っていた。
…鳴かないカナリヤの使い方を
間違わないようにだと。」
「勝てば望みは全て叶う”。
あの青年の“望み”は“外”だったということだ。
闘技場にカナリヤと共に囚われた獣が、
檻の外を夢見るのは当然だろう。」
淡々とした声だった。
そこには情も、躊躇もない。
セオドアは、
馬車の中で見た二人の姿を思い出す。
細い指が言葉をつむぎ、
窓外を警戒しているはずの青年も決してそれを見逃さない。
静かに言葉を交わしていたあの時間。
“囚われる”などという言葉では、
どうしても収まらない光景。
「…彼は、外を欲しているようには見えませんでした。」
騎士団長は、わずかに視線を向ける。
「欲していない?」
「ええ。彼が欲していたのは……」
言葉にしようとして、セオドアは止まる。
“彼女と話せる世界”。
"彼女といられる世界"。
そう言い切ってしまえば、
すべてが変わってしまう気がした。
団長は、ほんの一瞬だけ考える素振りを見せる。
「それでも結果は同じだ。
彼らはもうネリネには戻れない。
あの娘が我々のそばにいる限り、
彼は剣を振るわない。
それで十分だろう。」
十分。
国家にとっては、それで“完成”なのだ。
セオドアは、唇を噛みしめる。
彼は“外”を求めて剣を振るったのではない。
ただ、“彼女と話せる場所”を夢見ていただけだ。
だが、その祈りは――
この砦の中では
「制御可能な力」という言葉に、静かに塗り替えられていく。




