2-5
扉が閉まると、外の足音も遠ざかった。
部屋は地下の通路とは比べものにならないほど明るく、静かだった。
小さな机。椅子が二つ。
壁際には、白い布をかけられた大きな寝台。
ミアは一歩、足を踏み入れたまま固まる。
――広い。
――明るい。
――床までふわふわだ…。
指が、ゆっくりと寝台を指した。
「……ベッドだ。大分地下とは違うな。」
アルドがそう言うと、ミアは恐る恐る近づく。
布の端に指先を触れ、つん、と押した。
沈んだ。
ミアの目が、丸くなる。
もう一度。
今度は少し強く。
ふわり、と布が揺れた。
――…くもって触れるんだ。
ミアは首を傾げ、
それから思い切って腰を下ろした。
ぽふっ。
思っていたよりも深く沈み、身体が揺れる。
ミアは一瞬きょとんとし――
次の瞬間、弾かれたように目を輝かせた。
--アルド!!!!
――動く!
――やわらかい!
そのまま、勢いよく仰向けに倒れ込む。
ぽふん。
布が波打ち、ほどいた髪が広がる。
ミアは天井を見上げたまま、
ぱちぱちと瞬きをしてから、ゆっくりと笑った。
――……もう1回していい?
「……壊すなよ。」
低く言うと、ミアは慌てて首をぶんぶん振る。
――壊さない!
それでも、もう一度だけ仰向けに身体を倒す。
ぽふんっっ。
アルドはじっと楽しそうなミアを見つめる。
机の上には、紙とインク壺、
細身のペンが置かれていた。
ミアはそれに気づき、
ベッドから降りて駆け寄った。
――書いていい?
「……好きにしたらいい。」
ミアは机ではなく床に座り込み、
真剣な顔で線を引き始める。
描かれたのは、
大きな黒い物体――太いナスに見えるものに、
何だかギザギザな歯と、
モサモサとした毛が生えたナニカ。
その上に雲のような塊があり、
多分、人が二人乗っている。
ミアが描く人間は相変わらず芋にしか見えない。
それに、人だとすれば
ありえない方向に関節が曲がっているし、
顔らしき部分には目が三つ並んでいる。
アルドはしばらくそれを見つめ、
それが“自分とミア”なのだと、
遅れて気がついた。
--アルド。
炭筆を机の上にそっと置き、
幸せそうにミアはアルドに擦り寄る。
青年は琥珀の瞳を愛しそうに細め、
静かに彼女に顔を近づけた。
扉の向こうの気配を、背で感じたまま。




