16/43
2-3
馬車は、やがて石造りの門の前で止まった。
高く積まれた灰色の壁。
風を遮るようにそびえる塔。
闘技場の喧騒とはまるで違う、
張り詰めた静けさがそこにはあった。
扉が開かれると、冷えた夜気が流れ込む。
ミアは一瞬、肩をすくめた。
地下の湿った空気とも、闘技場の熱とも違う、
澄んだ“外の冷たさ”だった。
「ここが、騎士団の砦だ。」
セオドアの声は、馬車の外でわずかに反響する。
アルドは先に降り、周囲を一瞥した。
松明の光。整列する兵士。
どこにも刃は向けられていない。
それを確認してから、ミアへと手を伸ばす。
――ここ、人たくさん。
指が小さく動く。
「……ああ。
だが、もう誰もお前を傷つけない。」
セオドアの言葉に、
ミアはきょとんとした顔をしてから
そっと笑った。
--ありがとう。
--でも、地下でも殴られたのは小さい時だけだよ。
--アルドが守ってくれてたから。
アルドは答えなかった。
ただ、彼女が冷たい石に足を取られぬよう、
半歩前に出た。
ここは地下ではない。
闘技場でもない。
それでも
彼の腕が、彼女に触れる距離だけは、
まだ失われていなかった。




