002_誠実で公平で満足のいく契約です。
薄っぺらいスーツ、量販店での吊るしっぽい、色は紺色を中心にしたもの。
ピカピカに磨かれていた革靴、猿の怪物を飛び蹴りで爆散させた折に跳ね飛んだ、おそらく脳漿とか血肉とかで今は若干汚れている、はためいたスラックスの裾からのぞいている灰色の靴下、ワンポイントが蝙蝠?
深い緑色をベースにしたネクタイ、それを止めているネクタイピンのモチーフもまた蝙蝠であるようで。
オールバック、短めにまとめられた黒髪、やや広めのおでこ、黒縁のやぼったい眼鏡、髭は無し、よく剃られていて、しかも軽く化粧をしているのか肌がしっとりと綺麗、吹き出物一つない、少し日に焼けたような健康的な。
目鼻立ちはしっかりくっきりしていて、ガッチリしている顔立ちではあるものの、魅力的な、それでいて、どこか胡散臭い笑顔がよく似合っている、歯が白い、きらりと光っているように見えるのは、しかしおそらく錯覚ではあろうか、でも光っている気もする。
そして、
それら瑣末な特徴を塗りつぶすがごとくの筋肉、白いカッターシャツをうちから押し上げんばかりの大胸筋、スラックスが奇妙な曲線を描く大腿筋、ええもう、その太さは、女性のウエストくらいの大きさほどあったりするわけで、腰から足先までのカーブが筋肉でエロく浮き出ているわけであり。
二の腕も一の腕も丸太がくびれているような、どこぞの門にくわと睨みを聴かせている仁王像のごとく、そしてその手先、指先、鍵盤を叩くのにも苦労しそうなほどな太さ。
つまりは、かなり非常識なまでのマッチョメン、ただしイケメン風、それが、岩国迷宮第四十一層、一般的な武芸者、探索者でも相当に苦労を強いられる難所に、飛び蹴りを引っ提げて登場してきたわけである。
迷宮というどのような摩訶不思議なことが起きても不思議はない、そのような場所においても、かなりの非常識であることを、伏して述べさせていただき候。
で、その筋肉マッチョな変態が、大きく太く長い指を両手で持ってして、身体の比率にして木端な紙片つまりは名刺を、丁寧な手つきで、小柄な女武者、巨斧使いの小町に差し出して、一礼、と共に
「どうもー、インマー生命のセールスマン、田沼イチローと申します!本日はお日柄もよく!ますますのご健勝お喜び申し上げます!
いや死にかけてんるんだが?
朦朧とした意識の中律儀に突っ込む小町。
早速ですが、お客様、”今ここから入れる生命保険”いかがでしょうか?」
いやもう胡散臭い笑だったんだと思うんだよ、
のちに、女武芸者、巨斧使いの小町はそう語った、
もうその時点で、目の前が真っ暗になっててね、
能天気な言葉だけがかろうじて耳に届いていたという塩梅さ、
もう、走馬灯を静かに回そうかなという段取りだったんだけどさ、
とにかく、明るく能天気なバリトンボイス的な大声がそれを邪魔してくれたわけなのよ、
「今なら、不同意の意思を示さないだけで、速やかに心地よく穏やかな春の日差しの中でまどろむような心持ちで、契約がご完了いたしますが、いかがでしょうかー?」
まあ意識も朦朧としていたろ、だから当然、否定とかできないわけよな。
「おめでとうございます
ここでどこから取り出したクラッカー?手持ちの仕掛け花火、紐を引くと円錐の底から紙吹雪が出て、軽い破裂音を鳴らすやつな、
それを鳴らしたような音が聞こえたわけよ、
ご契約成立でございます!」
成立しちゃったかー
「では契約に基づき、蘇生再生治療のちに種付け作業を粛々と行わさせていただきますねー」
小町の内心:なんて!?
「こちら天井のシミカウント自動化読み上げ機器(イケボ音声)もサービスでおつけしております、どうぞ、めくるめく官能の世界をおたのしみください!」
やっぱり小町の内心:いやまって、聞いてない!
で、まあ、俺がママになったってわけよ。
全てを諦めたような目で語る小町、その映像はここで途切れている。




