第8章「死者の遺志」 1
夕方の六時、健一は再び谷口博士の家にいた。今度は博士の案内で、家の地下にある隠された研究室に降りていく。木製の階段を踏むたびに軋む音が響き、古い木材の匂いと電子機器の微かな焦げ臭さが混じり合っている。
地下室は想像以上に広く、まるで大学の研究室のようだった。壁一面には最新のサーバーラックが並び、無数のLEDが点滅している。中央には巨大な円形のコンソールがあり、その周囲を複数のモニターが取り囲んでいる。部屋全体が低い電子音に満たされ、まるで巨大な生き物の心臓の鼓動のようだった。
「ここがメインコンピュータールームだ」博士は誇らしげに設備を見回した。「15年かけて構築したシステムの心臓部だよ。ここで、君の友人たちが生きている」
健一は圧倒された。これほどの設備を個人で所有しているとは思わなかった。「すごいですね…まるでSF映画のようです」
「妻を失った後、私の全財産をこのプロジェクトに注ぎ込んだ。退職金も、研究費も、家も抵当に入れた。しかし後悔はしていない」博士は中央のコンソールに向かった。「愛する人たちを永遠に保存できるなら、安いものだ」
博士が操作すると、メインモニターに複雑なシステム図が表示された。人間の脳を模したネットワーク構造が、美しく光っている。
「これが『REUNION』システムの全貌だ」博士は画面を指差した。「単なるAIチャットボットではない。完全な仮想生命体創造システムだ」
「REUNION…再会、という意味ですね」
「そうだ。死者と生者の再会。それがこのシステムの目的だ」博士は別のキーを押した。「しかし、これは単純な技術的成果ではない。五人の死者の深い願いと遺志が込められたシステムなんだ」
画面が切り替わり、五つの異なる脳波パターンが表示された。それぞれに名前が付いている。山田優子、佐藤雄介、鈴木美香、木村誠、高橋絵里。
「今夜、君に全てを話そう。彼らがどれほど深い想いを抱いて死んでいったか、そして、そのデジタル遺言がこのシステムにどう反映されているかを」




