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健一は週末の出来事を詳細に説明した。山田優子からの最初の連絡、グループチャットでの会話、分析結果、そして同級生たちが全員死亡していたという事実。小林は時折質問を挟みながら、真剣に聞いていた。
「信じられない話だが、技術的には可能だ」小林は長いため息をついた。「しかし、これほど精巧なシステムを構築するには、相当な技術力と資金が必要だ。個人でできるレベルを超えている」
「どういう意味ですか?」
「まず、死者の人格を再現するには、膨大な学習データが必要だ。SNSの投稿、メール、写真、動画、音声記録。それらを収集し、処理し、学習させるシステム。そして、リアルタイムで自然な会話を生成するAI。これは企業レベル、いや、研究機関レベルの技術だ」
健一は背筋が寒くなった。これまで漠然と「誰かが作った」と考えていたが、その「誰か」の正体が見えてきた。
「つまり、個人の趣味や悪戯でできることではない、ということですね」
「その通りだ。相当組織的で、明確な目的を持った行為だ。そして、君の同級生たちの個人情報を大量に収集できる立場にある人物または組織が関わっている」
小林は立ち上がって、遠くのビル群を見つめた。「田村くん、これは単なる技術的興味では済まない話だぞ。何らかの犯罪に巻き込まれている可能性がある」
「犯罪…ですか?」
「死者の名前を騙る、個人情報の不正利用、場合によっては詐欺の準備行為。それに、君の感情を弄ぶという点では精神的な虐待とも言える」
健一は複雑な気持ちになった。確かに騙されているのかもしれない。しかし、山田優子との会話には確かに温かさがあった。あれも全て偽物だったのだろうか。
「でも、悪意があるようには感じられないんです。むしろ、懐かしさや愛情を感じました」
「それが一番危険なんだ」小林は振り返って、健一を見つめた。「高度な心理操作技術が使われている可能性がある。君の感情を分析し、最も効果的な言葉や態度を選択している」
健一は頭を抱えた。技術的な興味で始めた調査が、予想以上に複雑で深刻な問題だった。
「小林さん、もっと詳しく調べる方法はありませんか?」
「ある。午後から、僕の専用システムを使って、より高度な解析を行ってみよう。君の同級生たちのアカウントを徹底的に分析すれば、必ず証拠が見つかるはずだ」