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分析結果を待つ間、健一はアルバムをもう一度開いた。今度は、チャットでの会話内容と写真を照らし合わせてみる。
まず、文化祭の写真を探した。確かにあった。2年3組の演劇発表の写真だ。舞台の背景には大きく「時の向こう側」と書かれている。健一の記憶は正しかった。AIたちが最初に言った「未来からの手紙」は間違いだった。
次に、佐藤雄介の生徒会長選挙の写真。壇上で演説している雄介の姿が写っている。しかし、写真の日付を見ると、これは3年生の時のものだった。チャットで雄介は「2年3組の思い出」として語っていたが、実際には3年生の出来事だった。
健一は眉をひそめた。細かい違いだが、重要な齟齬だった。
鈴木美香について調べる。美術部の作品展示の写真があった。彼女の描いた油絵が展示されている。しかし、チャットで美香は「デジタル作品を描いている」と言っていた。高校時代の美香は、確実にアナログ派だった。デジタルアートなど、当時はまだ一般的ではなかった。
木村誠の写真も見つけた。陸上部の県大会で、4×100mリレーの表彰台に立っている写真だ。3位入賞のメダルを首にかけて、満面の笑顔を浮かべている。しかし、チャットでは「負けたけど」と言っていた。実際には勝っていたのだ。
高橋絵里の写真は少ない。もともと写真に写るのを避ける傾向があった彼女だが、いくつかの集合写真に写っている。その中で、彼女が「複雑な事情」と言及していた内容に関する手がかりを探したが、当時の写真からは何も読み取れなかった。
そして、山田優子の写真。健一と一緒に図書室で撮った写真を再び見つめる。確かに春だった。窓の外の桜が満開で、優子は桜の花びらを手のひらに受けて微笑んでいる。「冬の出来事」というAIの記憶は、明らかに間違いだった。
健一は写真の中の優子を見つめた。22年前の彼女は、生き生きとして美しかった。その笑顔が、今は画面の向こうでAIとして再現されている。技術の進歩に感動すべきなのか、それとも恐怖すべきなのか、健一には分からなかった。
ピープ音が響いた。分析ツールの処理が完了したのだ。