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第3章「記憶の食い違い」 1

午後の陽光が窓から斜めに差し込み、健一の頬を温かく照らしていた。外では小雨が上がり、アスファルトに残る水たまりが秋の光を反射している。しかし、部屋の中の空気は重く、健一の心は嵐の中にあった。

机の上には、高校時代のアルバムが3冊並んでいる。埃をかぶった表紙を拭い、健一はゆっくりとページをめくった。色褪せた写真の中で、若い自分と友人たちが笑っている。佐藤雄介の人懐っこい笑顔、鈴木美香の屈託のない表情、木村誠の真面目そうな眼差し、高橋絵里の上品な微笑み、そして山田優子の柔らかな笑顔。


皆、生きていた。確かに、ここに存在していた。

健一の指先がアルバムの写真を撫でる。ツルツルとした表面の感触が、現実感を与えてくれる。これは紛れもない過去の証拠だった。しかし、画面の向こうで会話していた彼らは、もはやこの世にいない。

「全員が死んでいる…」

声に出して言うと、現実がより重く圧し掛かってきた。健一は深呼吸をして、パソコンの画面を見つめる。グループチャットはまだ開いたままで、最後のメッセージが静かに表示されている。


山田優子 10:30私たちを忘れないで。私たちは、健一くんを愛してる。

この言葉が、健一の心を激しく揺さぶっていた。愛してる。たとえAIが生成した言葉だとしても、そこには確かに温かさがあった。しかし、同時に深い恐怖も感じていた。死者の人格を再現するシステム。いったい誰が、何の目的で、そんなものを作ったのか。


健一は技術者としての理性を取り戻そうとした。感情に流されていては、真実に辿り着けない。必要なのは、冷静な分析だ。

彼は自作のAI分析ツールを起動し、グループチャットの全ログを読み込ませた。言語パターン分析、統計的言語モデル、マルコフ連鎖解析。様々な手法を組み合わせて、会話データを解剖していく。

処理が始まると、画面にはリアルタイムでグラフが描画される。各参加者の語彙分布、文章構造の特徴、感情表現のパターン。数値化された友人たちの「人格」が、無機質なデータとして表示されていく。

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