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もういない子だれだ  作者: 相生


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第1章「久しぶりの連絡」 1

四十歳の誕生日が終わろうとしている午後十一時四十三分、田村健一は薄暗い部屋でモニターの光に照らされながら、またひとつ歳を重ねることの意味を考えていた。


六畳のワンルームマンション。窓の外には都心の夜景が広がっているが、十二階建ての中層マンションの八階から見える景色は、決して贅沢なものではない。コンビニの看板、信号機の点滅、深夜まで明かりの灯るオフィスビル。どれも健一にとっては見慣れた、そして少し寂しい風景だった。


机の上には、同僚から贈られた小さなチョコレートケーキの空き箱が置かれている。今日、会社で「おめでとうございます」と言ってくれた後輩たちの顔を思い出す。彼らは健一より十歳以上若く、まだ結婚や出世に希望を抱いている世代だった。健一も かつてはそうだったはずなのに、いつの間にか一人で誕生日を迎える四十歳になっていた。


「中堅システム会社のSE、独身」

履歴書に書けばそんなところだろう。決して惨めな人生ではない。安定した収入があり、趣味のAI学習も充実している。機械学習の基礎理論から自然言語処理まで、休日は技術書を読み漁り、簡単なチャットボットを自作したりもしている。同世代のサラリーマンと比べれば、むしろ知的好奇心の旺盛な部類かもしれない。


それでも、四十歳の夜は静かすぎた。

健一は椅子の背もたれに身を預け、天井を見上げる。白い天井には小さなシミがあり、まるで雲のような形をしていた。高校時代、昼休みに校庭に寝転んで雲を眺めていたことを思い出す。あの頃は、雲の形を見て友人たちと他愛のない話をしていた。

「あれ、犬に見えない?」

「どこが? むしろ車だよ、車」

「二人とも想像力なさすぎ。明らかにドラゴンでしょ」

そんな声が、二十二年前の記憶の中で蘇る。


健一はため息をついて、再びモニターに向き直った。画面にはPythonで書いたチャットボットのコードが表示されている。今日は自然言語処理ライブラリの新しい機能を試していたのだが、集中力が続かない。四十歳という節目が、予想以上に彼の心を重くしていた。


そのとき、パソコンの右下に小さな通知が現れた。

SNSの新着メッセージ。

健一は眉をひそめる。こんな深夜にメッセージを送ってくる人間など、限られている。たいていは迷惑メールかスパムだ。しかし、送信者の名前を見た瞬間、健一の心臓が一瞬止まった。


山田優子

その名前に、健一の記憶が一気に高校時代まで遡った。

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