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音楽室の怪

 授業も終わり、スマホを片手に藍香は羽村と共に下駄箱に降りてきた。

「ねぇねぇ、藍香。カラオケ行かない?」

「んー、いいよ」

「クリスタルキングの曲、レパートリーに入れたんだ」

「クリスタル……何?」

「クリスタルキング。大都会」

「聞いたことないわ、そんな歌手。洋楽?」

「日本の有名な歌手よ、知らないの? 大都会」

 そんなくだらない会話をしながら、藍香は下駄箱を開けた。すると中に手紙が入っていた。藍香は一旦閉じる。

 えっ……、えっ? ラブレター!?

「どうしたの藍香」

 藍香は、かなり動揺しながらも言葉を返す。

「ううん、ちょっと先行ってて。すぐに追いつく」

「? 分かった~」

 羽村が先に行ったのを確認して、藍香は再び下駄箱を開けた。

 手紙だ……。

 外履きに変えずに、藍香は全速力で取り出し、ポケットに突っ込んで近くの女子トイレに駆け込んだ。そして個室に入り、早鐘を打つ心臓を押さえながら手紙を広げた。

 `拝啓、勝山藍香様。私は吹奏楽部の一年です。探偵をやっているとの話を聞いて、依頼のお手紙を書かせて頂きました。私たち吹奏楽部の先輩から聞いた話なのですが、忘れ物を取りに学校が閉まるギリギリに音楽室に戻った時、ピアノの音色が真っ暗な音楽室から聞こえたそうです。もう生徒どころかほとんどの先生も帰宅しているはずなのにです。このままでは怖くて吹奏楽部に支障をきたします。どうか原因を調べて頂けないでしょうか? 1ーC 如月涼子`

 藍香はガックリと肩を落とした。

 学校の七不思議に入るレベルの依頼じゃない! しかも私、霊媒師じゃないんだって!!

 憤りを隠せなかったが、藍香は探偵の二文字に負けてしまった。

 まだまだ外は明るい。カラオケ行ってギリギリに戻って来たとしても、いつ学校が閉まるか分からない。

 思いっきり重たい溜息をついた藍香は、トイレから出てきて自分の教室に戻った。

 教室の教卓の下で羽村にLINEを送った。

『ごめん、依頼が入ったからカラオケはまた今度』

 すぐに羽村から「りょーかい」のスタンプが返ってきた。

 

 スマホを弄りながら夜を待っていると、誰もいないはずの教室の扉が開いた。

 その音に藍香は肩を跳ね上げ、悲鳴を出しそうになる。

 すぐに扉は閉まり、最後の巡回だったのだろうと心臓をバクバクさせながら思った。

 超怖い!!

 暗闇の中、スマホの灯りを慰めに一人でもうしばらく待った。

 突然鳴り出した下校のアナウンスにも吃驚する。アナウンスが終わり十五分ほど待って、漸く藍香は教卓の下から姿を出した。

 お尻痛~い!


 スマホのライトをつけ胸元を手で隠しながら、夜の校舎を怯えながら歩く。確認の写真を撮ったら、すぐに脱出出来るよう鞄も持って移動した。日頃、騒がしい校舎しか見たことがない藍香には、消火栓の赤い電灯すら不気味に感じる。長い廊下を進み、二階の音楽室を目指した。

 件の音楽室に近づいた頃、ピアノの旋律が突然鳴った。

『ぎゃあ!!』の言葉が喉元まで出かかったが手で防いだ。心臓が跳ね上がり、今にも止まりそうである。

 バッハの小フーガト短調の不気味な旋律が暗い廊下に響き渡る。藍香は逃げ出そうとしたが、何とか耐えた。

 音楽室の灯りはついておらず、仄かな光だけが漏れている。

 ヤバいヤバいヤバい!! 幽霊が襲ってきたらどうしよう!!

 藍香は一瞬、遺言かダイイングメッセージを残そうか考えたが、恐怖で竦む足を叩いて自分を鼓舞する。

 ここまで来たら覚悟を決めるのよ藍香!!

 音楽室の扉は少し空いている。その隙間から恐る恐る覗き込む。

 すると用務員の小篠が懐中電灯を鍵盤の上に置いて自分の世界に入っていた。あまりにも熱中していて、藍香には気づかない。

 藍香はこけそうになった。

 肩透かしを食らった藍香は証拠写真をスマホに納め、溜息をつきながら背中を向けた。

 急に白けた藍香は怖いものが無くなったのか、普通の足取りで下駄箱まで降りてきた。だが暗く静まり返った下駄箱で急に恐怖がぶり返してきて、自分の下駄箱を開けた時の音にも敏感に反応する。

 終わった~、早く帰ろ!!

 その時、LINEの着信が鳴り、「ひぃ!」と思わず声を上げる。

 すでに閉まっている校舎のサムターンを回し、扉を開けてLINEの内容を確認する。それは羽村からだった。

『六敗目?』

 藍香は返事を返さなかった。

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