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浮気調査

「あー、何か事件でも起こらないかな」

「高校生活で事件何てなかなか起こらないわよ」

 今日も屋上でポッキーをカリカリ言わせながら、羽村はスマホを弄っている藍香に返す。

「ねぇ、私にもポッキー頂戴」

「んっ」

 羽村はポッキーを銜えたまま藍香に口を突き出す。

「そんなお約束はいいわよ!」

 相変わらずくだらない会話をしている二人に、一人の女子高生が不安げな表情で近づいてきた。

「すいません、探偵をやっているってあなたですか? 依頼をお願いしたいのですが」

 自称探偵として知名度が上がってきた藍香の下に初めての依頼があった。

 文月一美。彼女は二年生でも五本の指に入るほどの才女で、陽光を反射する姫カットは彼女の理知的な側面を表現していた。

「はい! 勝山探偵とは私です!」

「〇勝五敗だけどね」

「四敗! それで依頼とは何でしょう?」

「実は……」


 彼女の話を要約すると、最近付き合った帰宅部の彼氏が一緒に帰ってくれず、怪しいので素行調査をお願いしたいとのことだった。

「お礼は何が良いでしょう?」

「お礼なんていりません。この依頼が成功したら私の名前を宣伝してくれれば!」

「分かりました。では依頼をお願いします」

 文月は淑やかに一礼して去っていった。

「浮気ね」羽村が食べ終わったポッキーの箱をゴミ袋に入れながら呟く。

「そうね。彼女はまだ体を許してないっていっていたし、新しい女が出来たのかもね。とりあえず学校が終わったら尾行するわ」

「面白そうだから私も手伝う!」

「邪魔しないでよ」


 実は藍香も尾行は初めてだった。初めての探偵らしい依頼に彼女の気持ちは高ぶっていく。そして、授業終了のチャイムが鳴った。


 ターゲットは橘悠太。文月と同じ二年生。ホームルームが早く終わった藍香は下駄箱付近で待ち伏せし、ターゲットを捕捉する。

「あの男子ね」

 橘から二十mほど距離を置いた状態で藍香たちも生徒たちに交じって下校する。

「ねぇねぇ、壁に隠れたりとかしないの?」

「こんな生徒が多い中でやっても意味ないでしょ、バカね」

「バカッて酷い! 藍香もあんまり成績変わらないのに!」

「しーっ! 目立たないの!」

 橘は普通の一般男子と変哲もない様相をしていた。

 見失わないようにしなくちゃ。

 藍香がいつも乗り降りするバス停を通過する。ここからどんどん学生が減っていく。

「ちょっと真桜、交代で尾行するわよ。出来るだけ気配は消すように」

「OK! まかしておいて!」

 二十から三十mの距離を維持しつつ、羽村と交代で尾行を続ける。途中商業ビルの前で橘は足を止め、辺りを警戒する。

 遠くから眺めていた羽村は息を飲んだ。

 藍香は気にせずに出来るだけ橘の視界に入らないように通り抜ける。

 そして橘は商業ビルへと入っていき、エレベーターのボタンを押して一人中に入っていった。

 中に入っていったのを確認して、藍香は走ってエレベーターの階数を確認している時に、羽村が追い付いた。

 エレベーターは六階で停止した。

「六階ね、私たちも入るわよ」


「お帰りなさいませ、お嬢様!」

 二人を出迎えたのは三人のメイドだった。

 メイド喫茶、初めて来た……。

 メイドに案内されて、パステルカラーの店内を歩き二人は席に着く。異世界に二人は呆然としながらも、店内を見渡した。だが橘の姿は見当たらない。

 橘君、どこ行ったの?

 席に着いた二人はひそひそと話し出す。

「この中に橘君の推しの子がいるのかな?」

「分からない……」

「ご注文はお決まりですか、お嬢様って、勝山と羽村じゃん」

 そこに現れたのは執事服に身を包んだ橘だった。

「橘君!」

「まさか同じ学校の生徒がメイド喫茶に来るなんて。この事は内緒にしてくれよ」

「橘君、ここで働いているの?」

「うん、もうすぐ彼女の誕生日が近いからバイトしているんだ」橘は恥ずかしそうに後頭部を掻く。「ご注文はお決まりですか?」

 藍香はメニューを見た。なんと一番安いオムライスでさえ二千円もする。かといって何も注文しないで去るのも憚られる。

「ああ……、えっと、じゃあオムライス二つ……」

「お飲み物はいかがですか?」

「いいえ、結構です」

「美味しくなる呪文はいかがですか?」

「いいえ、それも結構です……」


 結局、二千円もするブレーンオムライスをチビチビと味わいながら、藍香は聞く。

「ねぇ、これも一敗になるの?」

「……ううん、一勝にしておいてあげる」

「そう……、ありがと」 


 藍香の初の尾行は成功? に終わった。

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