【7】出逢う
その日。人の行き交うキャンパスで彼女を一目見た瞬間に分かった。あぁ…。
そして私の視線に気がついたのかこちらを見たその人がやはりすぐに理解したことも分かった。あぁ…。
────あの子、ゾンビだ。
私たちはお互いに向かってまっすぐに歩を進め、向かい合うと、
「「いつから?」」
と、同時に聞いた。
「もしかしてあなたゾンビ?」ではない。ゾンビであることはもうありありと分かったのだ。
生きとし生けるものたちの中にある異質。生きていないもの。
いや本当こんなにはっきり分かっちゃうとは。私ちゃんと擬態できてるのか不安になる。
でもこうして目の前の彼女をマジマジと眺めてみても、どうしてゾンビと気づくのか分からない。
私と同じ…いや私以上にこの子はきちんと人間している。
もしかしたら人間社会に紛れ込んでる宇宙人とかも、宇宙人同士はすぐに気づいちゃったりするのかな。
「私は2年の高村香澄。ゾンビになったのは去年の夏」
「あ、じゃあ先輩ですね。1年生の花宮あかりと言います」
「あぁ、いいよそんな。こんな奇跡の仲間に出逢えたのに敬語とか全然。タメで」
「わ、分かった。私はゾンビになったの今年の夏」
ほんとに奇跡の仲間だ…。やっぱり私みたいなケースは存在してたんだ。
なんか局地的なものだろうか。
「こ、今年の夏ってじゃあまだ1ヶ月ちょっとじゃん?え、それでこの状態??」
「う、うん?なんか変?」
「ウッソでしょそんな…。私外に出られるようになるまで半年かかったよ」
話を聞いてみると、彼女は去年の夏に自宅の庭で寛いでいたらついウトウト寝てしまい、侵入してきたゾンビに襲われたのだそうだ。
なかなか庭から戻らない彼女を心配してお母さんが声をかけてみると、すでにゾンビになっていたと。
「まあぶっちゃけ私は寝てたから噛まれたことも知らないんだけどね。起きたら体動かねぇぇぇみたいな」
「死後硬直ってキツイよね…」
「めっちゃキツかった…。そんでまあもちろん大ショックだったんだけど、家族にも支えてもらってちょっとずつ体動かしてさ。半年休学してた大学にもまた通い出してさ…。な、なのにあかり、あんたはたった一人でたった1ヶ月でこんな…すごい、すごいよ!がんばったねあかり!」
「香澄…」
抱きしめられてしまった。
ものの10分ほどで私たちは名前で呼び合う仲になった。そりゃそうだ。初めて見つけた同じ悩みの話せる仲間。
学年だけでなくゾンビとしても約1年の先輩。色々教えてほしい。
「ボイストレーニングはやっぱり早朝にやるのがいいよ」
「なるほど〜」
「冬になるといよいよ動きにくいから朝風呂おすすめ」
「ふむふむ」
「あと小さな怪我でも治らないからね…。日常生活に細心の注意」
「そっかぁ…」
「でも爪伸びてこないからお手入れすごく楽!」
「だよねわかる!」
わははは、と笑い合う楽しさ。
恋バナならぬゾンバナ止まらないぜ。
「あとあかり髪長いけどさ…。私くらいの短さのほうがいいかもしんない」
香澄の髪は肩くらいの長さだ。
「ほら、長いほうが引っかかったりして抜けやすいからさ。私たちもう今ある髪を大事にするしかないから。減る一方だからさ…」
「そ、そうか…」
で、でも。
「いざとなったらウィッグつけたらいいよね!素敵なのいっぱいあるし!」
「前向きだな!」
わははははは、とゾンビブラックな話をかましていると「ウィッグつけるの?」と後ろから声がした。
ぎく。神野くんー!いつから聞いてたー!!
神野くんは香澄が先輩と分かるとちょっと会釈して、「ウィッグつけるの?」と更に押してきた。
どうしようー。
「えーと、髪を切ろうかな〜って話してたんだ。暑いし」
誤魔化せるかな〜?
「…長いほうが、いいと思う」
とだけ言って、神野くんは去っていった。
良かった、ゾンバナ聞かれてなかった。
そんな神野くんを目で追っていた香澄が「髪は切れないねぇ…。あかり…私、応援するよ!」と、両手を握ってきた。
「ウィッグの応援…?」
「それのどこを応援するのよ!」
大切な仲間…いや、友人ができた、記念日。
(続)