【番外編】香澄と井田くん
こんにちは、私は高村香澄。享年20歳。大学2年の夏にゾンビに噛まれて半年間休学し、なんとか日常生活を送れるようになった後、大切な親友となる人に出逢う。
花宮あかり。信じられない程に前向きで、良い意味で楽天的。ついついネガティブに引き込まれてしまいがちな私は、明るい彼女にどれだけ救われたことか。本当に、逢えて良かった。
そんなあかりが最近、神野くんと正式にお付き合いすることになったらしい。すごく、めでたい。事故があって正体がバレてしまったけれど、それでもいいと言ってくれたそうだ。
あかりはこのところますます精神的に落ち着いたように見える。ようやくご両親に話す決心もついたと言っていた。きっと彼女はもう、何があっても大丈夫なのだろう。ちょっとだけ、悔しい。でも神野くんがどれほど良い人でも、いちばんいちばんあかりを理解できるのはなんたって私だから!ゾンビ仲間だから!
そう…神野くんはたぶんあかりのことをずっと以前から(人間だった頃から)好きだったのだろう。そしてそうではないと知っても、受け入れてくれたと。それはとても凄いことで、でもまあ理解はできるのよ。
「香澄センパア〜〜イ!」
それに比べて、私を見かけては寄ってくる、この人は分からない。この人はまずあかりのことを見抜き、ゾンビだと知った。そして初対面の私のことも、たぶん気づいた。つまりこの人は元より私がゾンビだと知っている。更にその初対面の時に私はめちゃくちゃに脅しつけ、その後もひたすら冷たくしている。
にも関わらず、好意を寄せてくる。意味が分からない。最初はからかわれているのかと思ったくらいだ。だから余計に冷たくした。でもどうやらそうではなく本当に私が好きらしい。なんでよ。
「なんで君は私が好きなのよ」
口に出てしまった。なによその顔は。君の好意なんて世界中にダダ漏れレベルでしょうが。何を今更オタオタしてるのよ。
「え、えっと、初めて会った時、オレ考えなしに喋っちゃって…センパイに、怒られて」
そう…私は他言したら君を殺すと言ったのよ。
「その時オレ、すごく優しい人だなって思って…」
ハァ???
「私は君を地獄に堕とすと言ったはずだけど?何が優しいのよ」
「ん〜……でもそれ、花宮のためですよね?」
………。
「あの時別にオレは確信があったわけじゃなかったし、センパイは誤魔化すことも、立ち去って逃げることもできたはずなんです。でもセンパイはすぐに花宮の側に立って、オレを威嚇した。…花宮を護るためですよね」
……………。
「自分の正体とか、安全よりも、花宮を優先した。ほんとに、優しくて、強くて、あと、綺麗で…」
〜〜〜〜〜っ。
「だ、だからオレ、そ、その時からずっと、香澄センパイのことっ、そのっ!」
「帰るっ」
カバンの中をゴソゴソとなにやら取り出そうとしているのをこれ以上見ないように、背を向けて歩き出す。
後ろから情けない声が聞こえるけど知らない。今振り返ったら受け取ってしまう。
あんな人、全然好みのタイプじゃないし、ほんとに好みのタイプじゃ全然ないし!
なによこの気持ちは。なんなのよあの人。
ま、まだ、受け取らないからっ!
(了)




