【24】スキーをする
ずっと荒天ならば外に出なくていいかなぁなどと思っていたのだが、翌日は綺麗に晴れ渡っていた。ぶっちゃけ生前なら元気よく飛び出しているところである。
昨日上から下まで滑り倒したらしい男子二人によると、下の方の初心者コースなら広々ゆったりしていて安心らしい。昨日しっかり降って今日が青空視界良好ということは雪質も環境も最高ということだ。ゾンビの初滑りには最適と言えるだろう。
だがしかし。階段を駆け足で降りるのはちょっと難しいというこの体でスキーはやはり無謀ではなかろうか。たくさん観たゾンビ映画の中にもスキーをするゾンビはいなかったし。いや仮にいたとしても何の参考にもならないけど。
日焼け止めをしっかりと塗り、(ゾンビ日焼けするのかよく分からないが焼けたら最後二度と戻らなそうなので常日頃気をつけている)(生涯をゴーグル焼けのまま暮らすなどは嫌だ)
よいしょよいしょとスキーを装着…いやこれ装着だけでもキッツイ。普通に考えて身の丈程もある板を身に付けて雪の上を滑走するとかなんなんだその危険行為は。
幼い頃からよくスキー場に連れられてきては心配しながら追いかける父をぶっち切って「ゲレンデの暴走機関車」と呼ばれた私、見る影もない。
外へ出てストックをしっかりと握りしめ、一歩また一歩とへっぴり腰で滑るよりは歩く要領で進んでいくと、(こりゃあ思った以上に大変そうだ)という顔で男子二人が見守っていた。後ろから私よりは滑らかに香澄が追いついてきた。
「センパイはけっこう上手そうっスね」と褒めたつもりの井田くんがギロリと睨みつけられていた。ゾンビの体でこのスキー捌き、そのヒトたぶん生前は超上手いよ…。
「あかりはこの一番なだらかなコース以外行っちゃダメよ。君(井田くん)が先導してあかりが止まれなくなったり転んで板が外れたら回収。君(神野くん)は常に後ろであかりがコケたら回収」
「「はい」」
香澄隊長の指差し確認である。回収されないようにがんばろう。
最後に私を指差して「ゆっくりゆっくり行くのよ。そして頭を絶対に守ること」
「はーい」
「と言うか香澄は大丈夫なの」
「なんとかなりそう」
やだもうかっこいい。
えっこらえっこらとリフトに到着。あまりにぎこちない動きのゾンビのために、リフト操作のおじさんがすっごく低スピードにしてくれた。ご迷惑オカケシマス…。
心配そうに見ている神野くんの隣になんとか並び、近付いてくるイスによっこらと腰かける。無事に座って体が宙に浮くと、見渡せば遥かに広がる一面の銀世界だ。美しいなあ…と感慨に浸りたいのだが、上から眺められる今できることをやらなければ。まずは人の量のチェック。幸いそこまで混んでいないようだ。傾斜はとてもなだらか。そんなにスピードを出してる人もいないようだ。と言うかこの傾斜ならそこまでスピード出なさそう。
大丈夫きっと大丈夫…と心の中で念じていると、「大丈夫?」と隣から声をかけられた。
振り向けばこの上なく心配そうな顔の神野くん。いかん、心に余裕の無さすぎるゾンビ、リフト上で顔面蒼白(もともと蒼い)になっている。
「ご、ごめん。えっとかなり久しぶりなもんで。緊張しちゃって」
「スキーやったことはあるんだ?」
「うん…子供の頃に」
子供の頃に、子供用スキーで出せるスピードとは信じられないと大人たちに言われる猛スピードで斜面を滑走してたよ…。神野くんにもお見せしたかった…。
しかし今はゾンビ。目指すは超スローボーゲンだ。ボーゲンってどうやるんだったっけ。腰をしっかり落として…いや想像するだけでもゾンビにはキツい動作だ。がんばれ私の股関節。
とにかく無理をしないようにしよう。倒れそうならもう大人しく倒れる。頭さえ庇えばむしろそのほうが安全だ。
とそこまで考えて、それはゾンビでなく人間の初心者でも同じだなと気付く。転びたくなくて頑張り過ぎると逆に怪我をする。ちょっと(かなり)の筋肉痛を抱えた超初心者のつもりでいこう。
リフトが到着する。香澄と井田くんの待つ場所までヨタヨタと近づく。
視界の、上半分は抜けるような青、下半分は輝くばかりの白。…綺麗だ。滑り降りるという大変な作業さえ残っていなければ心穏やかにこの美しい景色を眺めていられるのに…。と言うか実際に生前よりも何故だか美しく感じられるようだ。何が違うのだろうとひとしきり考えて思いついた、寒くないからだ。超冷え性の私にとってウィンタースポーツは常に寒さとの戦いだった。どれだけ内に着込んでもどんどんかじかむ指先足先。それが今や、寒さを1ミリも感じずに銀世界を見下ろせているのだ。これはこれで悪くない。
「全力ボーゲンよ、あかり。いい?限界まで八の字で」
そう言われても…。まずその形に足を動かすこと自体が人体に、いやゾンビ体に可能な体勢とすら思えない。あぁなぜ人間はこんなデカい板を身に付けて雪の斜面を滑走しようなどと…うん堂々巡り。
「いいぞー花宮。ゆっくり来ーい」
少し先までスイスイと降りてこちらを振り返った井田くんが手を振っている。
「やっぱり子供用のハーネスとか用意したほうが良かったんじゃ…」
後ろ待機要員の神野くんが心配そうに呟いている。それはさすがに恥ずかしい。
「だ、大丈夫!行きます!」
いざぁ!!
(続)




