【23】スキー旅行に行く
冬季休暇は香澄のお家の別荘にお邪魔するので帰省しません…と恐る恐る実家に連絡を入れてみた。せっかくのお正月なのに!と文句を言われるだろうなと思っていたのだが、「香澄さんなら安心ね。ご迷惑をおかけしないのよ」とあっさり認められた。香澄が全力で素敵なお嬢さんをやってくれたのがここへ来て効いている。本当に足を向けて寝られない。
香澄の優しそうなお父様が運転するワゴン車に綺麗なお母様と香澄、そして私と神野くんと井田くんと全6人乗り込んで長野へ。
「香澄がお友達と別荘行きたいと言い出すとはなぁ…」「しかも男の子もねぇ…」としみじみ感慨に耽っているご両親に「やめてよ!」と怒っている香澄、緊張のあまり声をひっくり返しながら挨拶している井田くん、いつも通りの神野くん。
私はと言うと旅行はもちろん緊張するのだけど、よく考えたら私のことをゾンビと知らない人が神野くん一人だけという状況なので案外リラックスできていた。
スキー場へと向かうのだから当然車は山道をグネグネと走った。子供の頃からけっこう乗り物酔いをするタイプだった私だが、今はまったく平気である。そう、ゾンビだから!座席から後ろを覗きこみつつUNOに興じていても酔わないとか生前なら考えられない。三半規管が弱いも強いもない、そもそも機能していない!スキーは死ぬほど下手になってるだろうけど、ゾンビ悪いことばかりでもない。
香澄が井田くんにドロー4の3枚重ねを叩きつけた辺りで車は別荘に着いた。井田くんは「本来はそれ重ねちゃダメなんすよ…」と言いながらも潔く投了した。
時刻は昼過ぎ。急げば余裕でスキーに興じることができただろう。ただ天候がイマイチだったので、初日はそのままのんびりと過ごすことになった。私と香澄は前もって、吹雪いてたりしたら外には出ないと決めていた。ゾンビの身で視界の危ない中スキーをするのは危険すぎる。
「今となってはボーゲンすら自信ないからね…」
「私なんてコケた後で立ち上がる自信すらないよ…」
「あかりには神野くんが助けに来てくれるんじゃない?私は絶っっっ対に転びたくない」
「こないだ井田くんが香澄を助け起こすイメトレからの素振り練習やってた」
「…うざい。まあとにかく気をつけようね。変な方向に折れてるけど平気な人とかになったら大変」
「でもさ、例えば雪崩に巻き込まれても大丈夫だよね私たち。時間はかかっても脱出できるよ」
「…サイアク春の雪解けまで待てばいいわね」
わははは、と相変わらずのゾンビジョーク。
そんなゾンビ二人と違い、元気な男子二人は降る雪をものともせずに早速ゲレンデへと出かけて行った。
井田くんとしては香澄を完璧にエスコートするために事前の偵察が大事らしい。
「コースを一通り滑り尽くして難所を覚えこむのだ!行くぞ有!」と神野くんを引きずっていった。
香澄のご両親が、「食べれないかもしれないけど…気持ちだけね」と温かい紅茶とクッキーを用意してくれて、4人でテーブルを囲むことになった。事情を理解してくれている人たちからの気遣いというのはなんて有難いものなのだろう…。
「花宮さんはその…ゾンビにその、噛まれてからまだ半年くらいなんだよね」
「お家に一人だったんじゃ動くのも大変だったでしょう?香澄なんて目を覚ました時は起き上がることもできなかったわ」
「あ、いえもう、そこは根性でなんとか」
香澄のご両親は根性…と目を丸くしてから顔を見合わせ、また私を見ると今度はウルウルとし始めてしまった。
「偉いのねあかりさん…一人でこんなにがんばって、ほ、ほんとに…ぐすっ、か、香澄と仲良くなってくれて、ありがとう…」
「何か困ることがあったらなんでも言ってほしい。できる限り力になるからね」
さめざめと泣くお母様に目を潤ませたお父様。な、泣かせてしまったぁ。
「だ、大丈夫です、ありがとうございます」と答えながらオロオロしていると、「二人とももう…あかりが困ってるでしょ」と香澄がご両親に箱ティッシュを渡してあげていた。
「君に会ってから香澄はみるみる元気になってね」
「そうなの。家では『あかりがあかりが〜』ってあなたの話ばかりよ」
「もーそういうのやめてってば!」と照れたような怒ったような香澄が拗ねている。愛され娘の顔をしているのを見てなんだかニヤニヤしていたらクッションを投げつけられた。急所の頭を狙わないあたり配慮が行き届いている。さすがにクッションでは死なないと思うけど。
「ところで…あの男の子たちのどちらが『勘付いた』ほうなの?」と急にトーンの下がった声でお母様が言った。
「髪が短くて元気なほうよ」と香澄が答える。
「ほう…脅しつけておいたほうがいいだろうね?アバラ1本くらい…」
お父様の目が笑っていない。
待って待って怖いから。香澄のルーツだ間違いないな。
「いい、今のところ誰にもなんにも言ってないみたいですし、だだだ大丈夫と思いますよ?」
井田くんのアバラの運命やいかに。
(続)




