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【20】学祭準備をする

ちょっと遅めの我が校の学祭。私の所属するミステリー研究会は緩いサークルなので学祭に参加したりしなかったりだったらしいのだが、今年は緩い感じで参加しようという流れになった。人数もそんなに多くないので展示作品で、コナン・ドイルやモーリス・ルブランら有名な推理作家たちのオススメしたい名作を一冊ずつ取り上げ、各々ブースを作って小物や時代背景の説明などを取り入れつつあらすじを紹介し(しかし犯人やトリックを匂わせるようなことは厳禁!ココ重要)推理小説に興味のない人たちにもちょっと面白そうと思ってもらえる感じを目指すということになった。

2〜3人くらいの組で一人の作家を担当。当然好きな作家の取り合いである。江戸川乱歩権を3年生が先輩権力で強奪し、サークル内最高人気を誇るエラリィ・クイーン権があみだくじによる争奪で盛り上がる中、なぜかミス研では派閥人数が少ないクリスティ権を私と神野くんがすんなりゲットしたのが2ヶ月前。そこから学祭準備が始まったのである。


まずは紹介する一冊をどれにするか。クリスティの著作はべらぼうに多い。そして大半が名作傑作だ。「オリエント急行殺人事件」や「そして誰もいなくなった」などは推理小説に詳しくない人にも知られているだろう。その有名かつ数多の中からたった一冊を選ぶというこの最初の作業は難航した。

クリスティと言えば意外な犯人。意外な犯人と言えばクリスティ。でも有名過ぎる意外な犯人ものはやめておこうと私と神野くんは話し合った。ブースにやってきた人がうっかり、「これ○○が犯人なんだよ」と叫んでしまわないとも限らない。その場にいた人たちの中にはまだ知らなくて、知らないままに読むチャンスが訪れる可能性があった人もいるかもしれないのだ。正直クリスティほどに有名な古典作品は読む前にネタバレ情報を知ってしまうケースも多い。かく言う私も子供の頃にまだ読んでないクリスティ作品の犯人を父からバラされてしまったことがある。この件に関しては私はいまだに父を許していない。

ともあれ、ネタバレを知らずに読めるかもしれない幸運を間違っても奪うわけにはいかないと、ここまでは二人の意見は一致したのである。


悩み抜いた私が選んだのは「ABC殺人事件」。タイトルくらいは知っている人が多いだろうし、大人気名探偵エルキュール・ポアロが活躍する作品で、印象的な序盤の殺人現場シーンと興味を掻き立てること請け合いだ。我ながらなかなかのチョイスだと思う。

対する神野くんの選んだ一冊は…「ゼロ時間へ」。…渋い、渋すぎる。まずクリスティの著作の中ではあまり知られてないだろう。ポアロもミス・マープルも出てこない。殺人の起こらない序盤からこの作品の良さを伝えにくい。

いや、「ゼロ時間へ」は私も大好きなのだ。クリスティの最高傑作はどれかと問われたら私は並み居る名作傑作を押し退けて「ゼロ時間へ」を選ぶ。この作品の終盤その「ゼロ時間」に到達した時のあの背筋がゾワゾワとする感覚は…しかしそれは学祭のブースでは伝えきれない!推理小説に興味のない人にも面白そうと思ってもらうためのオススメ本ではないだろう!


というわけで我々クリスティ班はまず最初の一歩から紛糾した。他のチームが着々と紹介する本を選びブース作りに取りかかっても私たちだけがずっと決められず、揉め続けること3週間。ついに1時間近くに及ぶ神野くんのプレゼンによって私が折れた日にはサークル内のそこかしこから拍手が湧いた。美人の部長からは「あなたたち仲良しだから組ませようと思ったけど、毎日言い争ってるからやめておけばよかったなって後悔してた」と言われてしまった。気を遣わせて申し訳ない。

さて決まった後は遅れを取り戻すべく頑張らねばならなかった。殺人現場にABC鉄道案内が置かれていたりはしないこの作品の良さを、そもそもなかなか殺人の起こらないこの作品の良さを、ネタバレも匂わせも一切なしで!私も懸命にアイデアを出して二人でブースを作っていった。


学祭のギリギリ前日に完成したブースの前で二人でハイタッチをすると、みんなからまた拍手が湧いた。


  (続)

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