【18】お説教を聞く
「お前いくらゾンビだからってあんま無茶すんなよ。火事場入ってくの見かけて肝が冷えたぞ」
「髪の長い女の子が火事の中に突撃していったって話を聞いてまさかと思って見に行ったら…!」
井田くんと香澄に助けられてから人気のない大学の構内で、私は二人から交互にお説教をされていた。
「ご心配おかけしました…。ミィちゃんを助けたくて。なんともないといいけど」
「ニャンコか。まあ元気そうに動いてたしきっと大丈夫だろ」
「あと火も、早く消し止められるといいけど」
「消防車到着したっぽいしきっともうすぐよ。あかり、火傷とかしてない?」
さあ…?どうだろう。なにせ熱さも痛みも感じないのでよく分からない。幸い冬なので厚着だから肌はほとんど露出していない。たぶん平気そう。
「二人とも、助け出してくれてありがとう。あのまま病院行く流れになったら一巻の終わりだった」
「いやそれはいいけどさ。なんかもったいないよな、本当ならヒーローなのに逃げなきゃいけないなんてさ」
「あぁ…や、そんなのどうでもいいんだよ。命、助けれただけで。でもそっか、ミィちゃんを抱きかかえて2階の窓からジャンプして華麗に着地とかできたらヒーローっぽいんだけどな。出来っこないから頭に浮かばなかったけどその方がミィちゃんも安全だし」
「熱くて煙が充満して一酸化炭素だらけのところに平気で入っていけるのは充分特殊能力だけどな」
特殊能力…そういう捉え方もあるか。
「あ、でも香澄センパイが困ってたらオレも火の中水の中行けるかもです!」
「あかりほんとに体大丈夫?」
渾身の右ストレートをさらっと躱されて豪快に回転したボクサーみたいに井田くんは後ろを向いた。
がんばって前に向き直ったら「名前で呼ぶ許可はしていない」と畳み掛けられていた。相手の反撃の芽を丁寧に全部潰す老獪な戦略家のようだ。
まあ、火傷の一つくらいできてたっていいんだ。
「私、ゾンビになっちゃったことはやっぱり辛くて、なんで自分がって悔しいけど、今日だけは、ゾンビで良かった」
ミィちゃんを守れた。
「あかりっ…!」と香澄がぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。こんな素敵な友達もできたし。
「花宮、手の甲、怪我してる」
井田くんに言われて見てみるとミィちゃんが付けたのだろう、引っ搔き傷。
たぶん治ることはないだろう。
名誉の、負傷だ。
(続)




