【15】断る
サークルが終わって神野くんとキャンパスを歩いていると、「お二人さ〜ん!」という声と共に井田くんが駆け寄ってきて、「これをあげよう」とチケットを2枚私たちの前に差し出した。
「恐怖!首吊り館からの脱出」とチケットに書かれている。これは最近話題になってるアミューズメントパークの中の施設か。お化け屋敷と脱出ゲームを合わせたようなものだろう。
「さあさあ」とチケットを押し付けられそうになる。でも脱出ゲームはな〜、素早く動いたり走ったりしないといけないだろうし。それに私はゾンビになって以来、本来生存を脅かすようなものに対する恐怖が大変薄れている。たぶん生存してないせいだろう。お化けが出てきても怖がってあげられないのだ。こちとらゾンビぞ?ってなる。キャーキャー言わない女子と行くお化け屋敷はあまり楽しくないのではなかろうか。というわけで。
「私こういうの得意じゃないから…。誰か他の人にあげて」
「まあそう言わんと。実はあと2枚あるんだ。君たちがこれを受け取ってくれればオレは更に香澄センパイを誘って4人で行こうという作戦だ。だからぜひ!」
んなこと言われても。てか香澄もたぶん好きじゃないと思うが。
「頼む!神野クンもオレを援護してくれ!」
変な作戦に神野くんを巻き込んで困らせるな。と言うかいつの間にそんな親しげになったんだ。
神野くんはしばし眉根を寄せて上を見上げてから私の方を向いた。
「このアミューズメントパークの中に水族館があるから、俺と一緒に行ってほしい」
「え…あ、う、うん」
思わずうなずくと、神野くんはふわりと微笑んだ。
「見事だな!オレへの援護には全然なってないけどストレートかつスマートなOKの取り付け方。そうやればいいんだな。よっしゃオレも誘ってくる。あ、香澄センパーイ!!」
と、香澄を発見した井田くんが駆けていった。名前で呼ぶのは許可してないと怒られて高村センパイと言い直させられている。
「………ポジティブな人だね」と神野くんが何かをオブラートに包んだ。
二人はそのまま私たちのそばまで来て挨拶など交わす。
おもむろに一つ咳払いをした井田くんは香澄を真っ直ぐに見つめた。
「この恐怖!首吊り館からの脱出!にオレと一緒に行ってほしい…デス」
「私は君と一緒に出かけたくはないので却下」
火の玉ストレート豪速球の頭部死球みたいなのを食らって井田くんはしゃがみこんだ。泣いていいぞ。
同性として見ているのが辛いのか神野くんが目を閉じている。
仕方ないので私が香澄と無駄話をしていると復活したらしい井田くんが神野くんに何やらコソコソ話している。
「援護してくれ」
「そう言われても…嫌がってる人にしつこくするのは良くないと思う」
「オレのおかげで自分だけデートの約束してズルいと思わない?」
「……それはズルいかもしれない」
「援護してくれ」
神野くんが井田ペースに飲み込まれている。
「あの、一度くらいデートしてみても…」
「嫌よ。秘密を握った女の子に付きまとうなんてろくな男じゃないわ」
「秘密?」
「あ、ううん、なんでもないの。それじゃ私はこれで」
と言って去っていく香澄を「オレ悪いことしてないです〜!」と言いながら井田くんが追いかけて行った。めげないなー。
「秘密……皇女様って本当だったの?」
「本当に違うからもう忘れて…」
皇女様の疑いを受けるならゾンビを疑われる方がマシかもしれないくらい恥ずかしい。
後日。水族館で二人で写真を撮ると、神野くんが「一応お礼を言わないと」と井田くんに「おかげさまで」とメッセージを付けて送っていた。
連絡先の交換までしていたのか。
井田くんからは「チクショー!」とだけ返ってきた。
(続)




