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【10】帰省する

震える指でインターホンを押す。


「た、ただいまぁ…」

「おかえり!もーアンタは全然帰ってこないで!そちらがお友達?いらっしゃい」


相変わらず元気な母が出迎える。

でもとりあえず小言の前に隣の香澄に目が行くので、作戦成功の気配。


「初めまして。あかりさんと親しくさせていただいてます、高村香澄です。今日はお世話になります。これ、つまらないものですが…」


と静々とケーキの箱を差し出す香澄はなんと素敵なお嬢様か。ゾンビ力だけでなく人間力でもだいぶ負けている気がする。


「あらあらまあご丁寧に。さあどうぞ上がって」


家に入って父にもただいまを言う。「ん、おかえり」と言葉短いのは友人連れなので微妙に緊張しているのだろう。

そしてとりあえずみんなでぴよるん♪を囲みながらのお茶。


「こないだ雑誌で特集されてたケーキなんですよ。すごく可愛いので食べてみたいと思っていて。あかりさんが誘ってくれたのでお言葉に甘えちゃいました」


と可愛らしく微笑む香澄はもうオスカー賞を授与したい程の名演技だ。こっちは「お、おいしいね」とぎこちなく引き攣ってるというのに。


「アンタその声どうしたの」


ぎくー。きた。当然の母からのツッコミ。どう頑張っても生前とは違う声。


「夏に風邪ひいちゃってさ。喉が痛いだけだったから大したことはないんだけど、なかなか治らないんだよね。大したことはないんだけど」


事前に考え抜いた回答。けほん、とわざとらしい咳もひとつ。しかしあくまでも高熱が出るなど重い症状はなかったと強調する。

なにせ母はちょっとでも私の具合が悪いと病院に!という心配性なのだ。熱を測れとか病院へ行こうなどと言われては一発アウトである。


「そうなの…。なんで言わなかったのよ」


………この質問は想定してなかった。そうだね、夏に帰ってこいと連絡あってずっと断ってたんだから普通なら風邪ひいてることを伝えるよね。えーーっと。


「…ガッコの課題が忙しくて伝えそびれてた」

「まだ1年生なのに随分大変なのね」


う。追求の手が厳しい。


「うちの大学、1年目から結構大変なんですよ。先生によっては課題どっさりで」


香澄ナイスフォロー!

そして喉の痛みも侮れないので続くようならちゃんと病院に行くようにという母のお説教をしばらくやり過ごした後、その突然のジャブはまさかの父から放たれた。


「病気もだけど、東京の方は時々ゾンビが出るようだから、二人とも気をつけるんだよ」


全身から出ないはずの冷や汗が出た気がした。


「う、うん。鍵をかけ忘れて部屋で寝てて侵入してきたゾンビに襲われないように気をつける」

「は、はい。庭でうっかり眠りこけて侵入してきたゾンビに襲われないように気をつけます」

「…えらく具体的だね」


危険過ぎる会話を終わらせるためにとりあえず父の好きなドラゴンズの話題に無理やり持っていくなどして。

そして今私たちはやっと私の部屋で二人きり、夜を迎えた。心底ぐったりである。


「ありがとう…。香澄がいなかったらきっと乗り切れなかった。アカデミー主演女優賞ものの演技だったよ…」

「私ここで主役じゃないんで、助演女優賞だけどね」

「すみません肝心の主演の演技がへっぽこで…」

「へっぽこ過ぎてどうしようかと思ったよ…」


ベッドの隣に香澄のための布団が敷いてある。とは言え二人とも眠ることはないため、このまま徹夜の女子会だ。しかし夜通し喋っていたら親に気付かれてしまいそうだし、何か香澄が楽しめそうな本か雑誌でも見繕うかと、部屋を出て廊下を歩いていると。


「やっぱりあの子、なんか変じゃなかった…?」


母の声が聞こえてきた。


「うーん…まあちょっと元気なさそうだったな。でも不良になってるわけでもなさそうじゃないか。お友達もしっかりしたお嬢さんだったし」

「そうなんだけど…なんだかすごく無理をしているみたいで…。でももう、なんでも親に話すような年齢じゃないものね…」

「…そうだな」


心配を…させている。ごめんお母さんお父さん、心配かけて。ゾンビになんかなっちゃって、ごめん。

今はまだ話せないけど、いつか伝えるから。いつか、ゾンビにはなっちゃったけどまあまあ幸せだよって言えるように。がんばるから。待ってて。


翌日。できるだけ元気そうな笑顔を見せて、実家を後にした。


   (続)

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