06 永眠
お久しぶりです
ちゃんと生きてます(花粉症諸々で死にかけてはいますが)
屋敷から逃げて1時間後、グランとエマは街の大通りの裏通りにいた。
「はぁはぁ・・・・・・エマ、奴らを振り切れたみたいだし、一度休もう。」
そう言い、倉庫らしき建物の壁に寄りかかる。この時間では酒場も閉まってい、あてになるのは起きている衛兵のいる城門辺りだろう。
休み始めてから5分ほど経っただろうか。通りの遠くにランタンの明かりが複数見えた。どうやら走っているらしく、激しく明かりが揺れている。衛兵の巡回なら走る必要はない、つまり追手だ。
「エマ、あと少しだ。 行こう。」
そういった瞬間、背筋がゾクリとし、エマを抱えて前へ飛ぶ。数瞬後、先程いた所へ倉庫の壁を粉砕しながら斧が飛来する。
アイツの斧は2つある。身動きの取れない空中にいる今を狙ってもう一つの斧を投げてくるはずだ。
だが、誰が空中では身動きが取れないと決めた?ここは魔法がある世界、ならゲームのように空中ダッシュが出来てもおかしくはないだろう。
2つ目の飛来した斧は青い炎の残る空を虚しく掠める。
「くぅぅっ」急な加速で体に大きく負荷が掛かり、噛み殺した悲鳴が漏れ出る。
思いつきで魔法耐性があるトレンチコートがあるとはいえ、爆発の勢いを使って空中で動くのはかなり痛い。だが、悲鳴を上げる体に鞭を打ち走らせる。背中を見せて止まっていれば、一瞬で死ぬだろう。だから止まるわけにはいかない。そのまま建物の屋根の上を走る。
次の屋根に飛び移った瞬間、建物が崩れる。咄嗟のことで反応できず、そのまま落下し瓦礫に埋もれた。
「グハッ!?」
背中から叩きつけられ、肺から強制的に空気を吐き出させられる。痛みを堪えながら、落下したときに気を失ったエマを引き上げ、瓦礫の山から抜け出す。
倒壊に巻き込まれて下敷きになった右足を引きずりながら、エマを地面に寝かせる。
足を負傷したことによりエマを抱えながら走ることができなくなったため、せめてエマが起きて逃げる時間だけでも稼ごうと迎撃の準備をする。鞘からヒビが入ってしまった剣を抜き、魔力を練る。
鎖をジャラジャラと鳴らし、アイツが近づいてくる。
「よおガキ、ようやく諦めたか。安心しろ抵抗しないならすぐ終わらせてやる。最後に俺の名前を知っときたいかぁ? 一応言っといてやる。 俺はジェラルドだ。」
「ガキじゃない。グランという名前が僕にはある!」
「これから死ぬヤツの名前なんてどうでもいい。それとも抵抗する気か?ただ苦しみが増えるだけだぜぇ?まさか時間稼ぎか?俺相手にそれは無謀だぜ。」
図星で目を逸しそうになるが、ジェラルドを睨む。
「嫌いだなその目。まあいい、殺す。」
そう言い斧を構え、こちらへ迫ってくる。炎を圧縮した弾を放つが全て当たらない。近接に持ち込まれ、実体剣と炎を圧縮し剣の形にした魔法剣で対応する。
普通の金属の斧なら魔法剣で溶かして切ることができるはずなのだが、いなされる。どうやら魔力を帯び、魔法に耐性を持つ特殊な金属『魔金属』の一種で出来ているAMT(automatic magic tool)なのだろう。
ただし、魔法に対抗できる代わりに魔金属の採れる量も少なく、製作するにはかなりの金がかかる。つまり、ただの盗賊や強盗ではなく、組織的な襲撃ということだ。
深夜の街に硬質な金属と金属がぶつかる音が響き、火花が散り、二人を照らす。
何度も剣を交え、わかったことがある。ジェラルドは風魔法を使っているようだ。魔法剣はいなされているというよりも斧に当たる前に流されている。
まず魔法剣は超高温だ。流石に魔法に耐性がある魔金属でも高温により溶けてしまう。
だが、それは触れていたらの話だ。少し間が開くと熱は伝わりにくくなる。それに炎弾が当たらなかったのも、風の壁で阻まれたのだろう。
一度距離を取り、仕切り直す。
もう一度炎弾を放つ。今度は逸れずにまっすぐ飛んでいくが、風の壁で威力が減衰し、斧を盾にして防がれる。先程の炎弾と何が違うかは、そのままの魔力を使ったか、圧縮し密度を高めた魔力(これを圧縮魔力と呼ぶことにする)を使ったかの差だ。
有効な手段が見つかったが、多用できるものではない。短期決戦になるため、圧縮魔力で出した炎の魔法剣をジェラルドに振る。
少し押し返される感覚があったが、そのまま振り切る。斧を両断とはいかなかったが片方の斧の刃の部分を切り飛ばした。
「うぅっ・・・・・・ はっ!! グラン様は⁈」
どうやらエマの意識が戻ったらしく、僕のことを探して声を出したらしい。思わずエマの方へ意識が逸れる。
ジェラルドから注意が逸れてしまい、まずいと思い意識をジェラルドへ戻すが、ところがヤツは僕から50メートルほど距離を取っていた。
予想外の動きに戸惑っていると、ジェラルドは斧を振りかぶり、投げようとする。
飛んでくる斧を防ぐために両手で剣を構えるが、投げられた斧は真っ直ぐ僕に飛んでくるわけではなく、横にズレて当たらない軌道で飛んでくる。
投げられた斧の狙いはエマだということに気づいたのは僕と斧の距離が20メートル程になった時だった。まだ意識が戻って間もないエマには避けられない。
なんとか間に合い、斧を逸らすために剣を軌道上に全力で叩き込む。斧に風で押して加速させる魔法が仕込まれているらしく、投げられたときよりも速くなっている。
剣と斧がぶつかった瞬間、ものすごい衝撃が手に伝わってくる。
受けきったと思った次の瞬間、ヒビが広がり、剣の刃が折れ飛ぶ。
だが、剣を代償に斧の軌道は逸れて、エマから少し離れたところに着弾する。
土煙でエマが見えなくなるが直撃はしていないはずだ。
一方、折れ飛んだ刃はクルクルと弧を描き、鈍い光を反射させながら土煙の中に飛んでいった。
エマがいる土煙の中に飛んでいった刃に意識を奪われて、ジェラルドから注意が逸れてしまったことが僕の敗因になった。
気づいたときには斧を振り抜かれる寸前だった。体を後ろに引き、躱そうとするが避けきれずに上半身を浅く切られ、そのまま振り抜かれて左目を掠める。
振り抜かれた斧は切り返され、一直線に僕の首を切り飛ばそうと振り下ろされる。
「くぅっ!(不味い、このままじゃ何も出来ずに死ぬ。僕が死ねばエマも殺される!)」
(だが剣で防ぐことも魔法で迎撃することも出来ない。なにかないのか!)
死ぬ直前の走馬灯のような引き伸ばされた時間の中で考えるが何も出てこない。
(魔法では要素の構成が間に合わない、ちゃんと要素の構成をしなければ暴発してしまう・・・・・・?)
斧が首まであと50㎝ほどのところで、ふと一か八かの賭けを思いつく。だがこれはジェラルドも確実に巻き込む代わりに、自分も巻き込んでしまう。恐らくこの状態で巻き込まれれば死ぬ。だがやらなければ自分だけ死に、エマが殺される。
覚悟を決め、圧縮魔力をジェラルドと自分の間に放出する。そして本来なら目的に適した形に変化・制御が必要なのだが、変化させずに自分の制御下から解き放つ。
すると炎に変質した高密度の魔力が大気中の魔力(魔法の発動などにより大気中に放出されたもの)や魔素(大気中の魔力が細かくなったもの)に影響し、大気中の魔力が炎に変化し始める。
完全に爆発して辺りを吹き飛ばす前に斧が首に到達する。そして次の瞬間、莫大な量の魔力が暴走・爆発し、辺りを白く染め上げる。
爆発の騒ぎに集まった衛兵と野次馬が見たのは一部が蒸発するほどの熱を受けて融解し、冷え固まった窪んだレンガで舗装されていた道と倒壊した建物、そして胸から首へ折れた刀身が突き刺さり、それ以外にも至るところに鋭い瓦礫などが刺さり、貫通している少女の遺体だった。
エマ死亡確定!
グランは生きてるかな?(まさかの主人公死亡かも……)
というわけでun chapitre 01 ciel des commencement(1章 始まりの空)終わり!
章が短いと思われるかもしれませんが1章だけのはずです(はずだよ はずなのだよ)
2章からは長くなります(多分長くなるのか?……作者のモチベ次第かもしれない……)
この拙い小説を読んでいただきありがとうございます!