10 出立
締切は守らねば・・・・・・
依頼開始当日、ロータス伯爵家の屋敷の前に赤い車体に金のラインが入った貴族仕様の馬車が2台止まっているのを見て、重責にため息をつく。
「まさか馬車の護衛まで俺1人っていう訳じゃないよな・・・・・・」
普通、貴族の血縁などが遠距離を移動するならば、貴族専属の騎士たちが護衛に回るため必然的に大商隊レベルの馬車の数になるはずだ。
それがたった2台である。令嬢とその使用人が乗るのに1台、残り1台は荷馬車、つまり俺以外の護衛はいるとしても1人から2人程だろう。
門は顔パスで通り抜け、屋敷の気品あふれる重厚なドアを引き開ける。
屋敷に入ると伯爵と婦人に娘であるシルフィリア嬢が出立の挨拶をしているところだった。
「お父様、行ってまいります。」
「行って来い、トールに会ったら今度の長期休暇は一緒に帰ってこいといと言ってくれ。 それと王都の家柄だけのクソガキどもに泡吹かしてこい。」
伯爵のブッ飛んだ激励にシルフィリア嬢も呆れているが、実際王都にいる貴族は大抵が自分の領地を代官に任せて金を搾り取り、豪遊しているロクでも無い奴らである。
「伯爵、そんな暴言吐いたら駄目ですよ、クソなのは同意しますが。」
「おお!アルト、来たのか。」
教育に悪い伯爵の発言をなだめつつ、シルフィリア嬢に挨拶する。
「シルフィリア様、精一杯務めますので3年間よろしくお願いします。」
「よろしくね、アルト。」
時は別れの挨拶を済ませ、予定通りにテレート領を抜けた、ガーシア領の森の街道である。
「はぁー、護衛が俺一人なのは俺への信頼の現れっていうことなのか?」
伯爵からの俺への信頼はとても厚い、5つ星だということもあり護衛の戦力としては過剰なレベルだが、1人なのだ。どうしても隙ができる。
伯爵からの過剰な信頼に頭を悩ませていると、1km先に街道ではなく、森の中に潜みこの馬車を監視するような動きをする3人組が居ることに気づく。
「伯爵がこっそり護衛を付けた・・・・・・のか?」
だがその考えはその3人組の行動で否定される。3人の内1人が離れたのだ。
その1人の行き先には18人もの人間がいる、しかも洞窟に。
「これは山賊か?、それとも暗殺するための部隊なのか?」
しばらくすると集団が動き出した、こちらの進路を塞ぐように。
「来るのか、・・・・・・まさか貴族の馬車を襲うとは。」
貴族の馬車は腕の立つ護衛が付いてい、中の人間を誘拐するのも、荷物を強奪するのにも犠牲が多く出る。
更に襲った貴族の家から討伐隊が組まれたり賞金首にされたりし、逃亡生活になり果ては死が待つのみとなるため、基本貴族の馬車を襲撃するのはリスクが大きすぎてとメリットが釣り合わない。
おそらく今回は護衛らしき者が1人だということで逃げられることは無いと予想してのことか、もしくはどこかの貴族に差し向けられた、山賊に扮した暗殺部隊かもしれない。
同じペースで進んでいると50メートル程前方にワラワラと10人の山賊が森から出てくる。馬車を止めると後方100メートル程に退路を断つように6人出て来た。
「そこの坊っちゃん武器を捨てて大人しくしてたらお前の命は奪わねえぜ、死にたくないだろう?」
そう言い薄汚い笑みを浮かべる体格の良い親玉らしき山賊を先頭に歩いて来る。
立ち上がり腰の剣に手を伸ばすと、両側の森の中から矢が飛んでくる。元々目撃者は全て消さなければ終わりなのだから確実に殺す気なのは分かっているのだ。
左から頭に飛んでくる1本目の矢を腰を落とすことで躱す。そして抜剣する勢いで右からくる胴体を狙った2本の矢を切り落とす。
剣を振った後の硬直を狙って放たれた両側から来る矢を御者台から飛び出すことで躱し、そのまま前方の山賊たちに突っ込みながら、矢を放った山賊たちに頭上からの氷の槍をお見舞いする。突然の頭上からの攻撃に反応できずに5人の山賊はみんな仲良く頭から串刺しになった。
「暗殺部隊にしては弱すぎる、ただの山賊なのか。」
山賊たちに接近し魔力を込めた剣を一閃、するとまだ刃が届く距離ではなかった山賊たちの首が6人分、濃密な魔力で形成された刃によって冗談のように飛ぶ。そして残りの4人の胸に氷の槍を飛ばし、心臓を貫く。
ここまでで5秒、たった一瞬で前方の山賊が壊滅したことにより、後方から迫ってきた6人の山賊は動揺する。そして次の瞬間横へ飛ばした、まるで巨大な手裏剣のような4枚の氷の刃が残りの6人を腰斬する。
飛ばしたアイスブレードがしっかり山賊を全滅させたことを確認して、剣を鞘に戻した。
「あっけないな。」
山賊たちの死体を一瞥し、御者台へ戻る。
2日後、旅は順調に進み、問題なく王都へ到着した。
ストックがあと1つしかない……
ゴールデンウィークに頑張るか……




