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54、交渉条件


 アルミンは深呼吸してから口を開いた。

「まあ、タダとはいかないでしょう。こちらから提供する物が必要です」

「提供する物?」

 ライナーは上目遣いで聞く。

「はい、サインドシャーの城と、その近辺の土地を割譲しなければならないでしょう」

「サインドシャーの城だと!」

 ライナーが勢いよく立ち上がった。

「ふざけるな! あの城を建てるのにどれだけの費用がかかっていると思っているんだ」

 握った拳がふるえている。

「しかし、兄上。あの城はベルナールの国境の近くにあり、ベルナールに侵攻してやるぞという野望が見え見えです。サインドシャーを放棄しなければ相手は納得しないでしょう」

「ダメだ。交渉材料としては値段が高すぎる」

 ライナーは、どっかりとイスに座って腕を組む。

「交渉が成立しなければ戦争になります。戦えば大勢の死人がでる。それでよろしいのですか」

「いくら兵を損なおうとも守るべき物がある」

 ライナーの言葉を聞いて隣のディミトリーは口をゆがめる。今の話を兵が聞いたら志気が落ちるからだ。

「兄上、何も私は人道的な立場からのみ言っているわけではありません。確かに城は高価な物ですが、新兵の一人を熟練兵に育てるために、どれだけの費用を要するか知っていますか」

「……」

「食事や衣服などの生活費、それに訓練の費用と毎月の給料。それに武器などの装備を用意する。それを三年以上かけて、やっと一人前の兵士が完成するのです」

 そう言ってからアルミンはライナーの表情を伺う。ライナーは目を背けたので、アルミンは話を続けた。

「兵が手柄を立てれば報奨金を出すし、戦死したならば遺族に一時金を出さなければなりません。一人の兵には多額のお金を費やしているのです。今回の戦いで大勢の兵が死亡すれば大きな損失になる。それはサインドシャーの城を三つ渡してもお釣りがくるほどでしょう」

 ライナーは考え込む。

 しばらくして「そうか……」と言った。

「それから、もう一つ渡さなければならない物があります」

「それは何だ、アルミン……」

「曲刀ハルパーです」 

 ライナーの体がこわばり、細い目を見開いてアルミンを睨む。

「曲刀ハルパーだと? 聖剣を……俺の聖剣をタケルに差し出せと言うのか、タタール帝国の国宝だぞ!」

 ライナーは両目から火を噴き出さんばかりに怒った。

「しかし、聖剣と言っても、しょせんは物です。人間の方を大事にすべきでしょう」

「ダメだ!」

 ライナーは首を振り、肩まで届く長い銀髪を振り乱す。

「トルーナンとしてはタタールに勝利したという印が必要でしょう。聖剣を渡せば納得すると思いま……」

「ダメだ!」

 ライナーは泣きそうな顔で髪を乱している。

「兄上、ハルパーを渡したとしても相手は煮て食べるわけではありませんよ。きっと、宝物倉に大事に保管するでしょう。取り返す機会は、いつか訪れるはず」

「ダメだ、ダメだ、ダメだあ!」

 ライナーはブンブンと首を振った。

「ハルパーは帝国の宝だ。俺の宝だ、俺自身なんだ。それをタケルなどに渡してたまるか」

「しかし、兄上」

「うるさい、うるさい! お前など父上がメイドに産ませた厄介者ではないか。王族とは名ばかりの継承権のない臣民にすぎない。ふざけたことを言っていると粛正するぞ」

 激高したライナーは立ち上がり、テーブルに立てかけていた剣を持った。

「お待ちください!」

 ディミトリーがライナーの前に立ちふさがる。

「私もアルミン王子と同じ意見です。粛正するというのなら私からお切りください」

「ディミトリー……」

 ライナーの手が震え、剣が小刻みに金属音を出す。

「分かりました、兄上。聖剣は渡さない、それを前提として交渉を申し込みましょう」

「アルミン……」

 ライナーは力が抜けたようにイスに落ちる。

「私が交渉に参ります。停戦の条件としてサインドシャーの城で足りなければ私が人質になれば良いでしょう」

「アルミン様……」

 ディミトリーが大きく息をしてアルミンを見た。

「では、私もアルミン様と一緒に参ります。ライナー司令官、ご許可を」

 ディミトリーはライナーに深く頭を下げた。

「……分かった。二人に任せる」

 ライナーは剣を机に立てかけた。

「それから、ライナー様。先ほどは少しお言葉が過ぎたように思います」

 ディミトリーの視線がライナーを見据えている。

「ああ、そうだな……。アルミン、さっきは済まなかった。口が滑ってしまっただけで本心ではない、許せ」

「いえ、兄上。何とも思っていません」

 しかし、あれはライナーの本音だと、出席者の皆には明白だった。


 *


 翌日、アルミンは馬車でトルーナン軍の砦を目指した。

 ディミトリーは馬に乗って馬車を先導する。黄色のタスキを掛けて、タタール軍の使者であることを示した。


 黄色のタスキは連絡係か使者を表す。大陸では使者は殺さないという不文律があった。

 緩やかな坂を上り、馬車はユンテの丘に到着した。

 砦の柵の前に行き、中の衛兵に要件を告げる。しばらくして、丸太を組んで作られた扉が開いた。


 馬車の中に剣などの武器を置き、アルミンとディミトリーは衛兵に案内されて、丘の頂上に設営されたテントの中に入った。

 中には大きな作戦用のテーブルがあり、タケルとアリサ、それにローレンツとアリサの副官のアルベールが座って待っていた。


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