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4、磁石


 タケルは生き残った山賊たちを集めた。

 彼らは後ろ手に縛られたまま地面に座らされ、恨めしそうにタケルを上目遣いで見ている。

「お前たちに聞きたいことがある。この洞窟の奥に鉄を引き付ける石があるはずだが、知っている者はいないか?」

 タケルの質問に山賊たちは顔を見合わせて首をかしげた。

「石炭のように黒い石で、鉄の剣がくっつくという物だが……」

 もしかしたら空振りだったか……と思ったが、山賊の一人が大声を上げた。

「それは、あっしが知ってますぜ、旦那様」

 立ち上がったのは、ぼさぼさの白い髪をした小男。

「前に洞くつの奥に行ってみたとき、腰の剣が引っ付いたことがありますぜ」

 日焼けした黒い顔は真剣だった。

「本当か?」

「ええ、ホントですぜ、ダンナさん。確か、こぶしくらいの黒い石で、その時はなんとも思わなかったんですが、それはダンナが言ったとおりの黒い石でしたぜ」

 そうか、と言ってタケルはアリサを見る。

 彼女は小さくうなずいた。


 その山賊の小男はダルクと名乗った。

 タケルとアリサはダルクを案内人として、洞くつの中に入ることにした。

「絶対に磁石を見つけてきなさいよ」

 ベアトリスが命令口調で二人の背中に声を浴びせる。

「ハイハイ」

 苦笑いしてタケルたちが洞くつの中に入っていった。


 ロウソクのランタンを持ったダルクは、勝手知ったる住処なのでスイスイと洞くつの奥に進む。それにタケルとアリサが続いた。

 タケルは指輪の空間把握能力があるので、照明は必要がない。岩だらけの洞くつを苦もなく歩いていく。後ろのアリサはランタンで足元を照らしながら必死に付いていった。


 しばらく進むとダルクが立ち止まり、地面から一つの石を拾い上げた。

「これですぜ、ダンナ」

 差し出された黒い石。

 タケルが受け取って腰の短剣を近づけると、パシッと音がして石にくっついてしまった。

「これが磁石というものね」

 アリサがタケルの持っていた石を持って防具の金具にくっつけたり外したりした。

「不思議な物があるのね……」

 ランタンで磁石をじっと見つめるアリサ。


 その時、タケルがアリサを抱きしめて岩陰に強く引っ張っていった。

「えっ! なに、何なの?」

 構わずにタケルはアリサの体を岩に押し付ける。


 直後、後ろの岩が崩れてきて、大音響が洞窟を揺らした。

「アッハッハッハ! ざまあみろ、ダンナ」

 タケルは指輪の能力で、ダルクのゆがんだ笑い顔が把握できた。彼は笑いながら洞くつの奥に消えていく。


「やれやれ……やってきた通路は完全にふさがれたようだな」

 そう言って、アリサに覆いかぶさっていたタケルは立ち上がった。

「コホッ、コホッ。いったい何がどうなったの」

 せき込みながらアリサがタケルを見る。

「ダルクが岩陰に隠されたロープを引っ張るのを感じて、これは危ないなと思ったのさ」

 背中を向けていても、真っ暗闇でもソロモンリングの力で物の動きを把握できるのだ。

「えっ、どういうこと? 私たちは洞くつに閉じ込められたってわけ?」

 アリサの呼吸が早くなる。


「大丈夫、やつだって俺たちと刺し違える覚悟はない。どこかに出口があるはずさ。とにかく落ち着くんだ」

 そう言ってアリサの肩を強くゆすった。閉塞感でアリサが過呼吸症候群にならないように気を遣う。

「本当に脱出できるの?」

「ああ、外から洞窟に向かって空気が流れていた。ということは、空気は外に出ているから必ず他の出口はあるはずさ」

 アリサは落ち着こうと小さな深呼吸を繰り返す。


「やつの動きは察知している。とりあえずダルクの後を追うことにしよう」

 タケルが先を歩き、その後にアリサが続く。

 ソロモンリングは半径100メートルの状況を把握できる。暗闇の洞くつも、逃げていくダルクの姿もはっきりと捉えていた。


 いつまでも続く暗闇にアリサは不安を覚えていた。グルグルと同じ場所を回っているのではないかという恐怖感。

「ねえ、タケル。まだ山賊に追いつかないの?」

 声が少し震えていた。

「大丈夫、やつの姿は把握している。今は岩だらけの斜面を登っているようだ」

 そう言って淡々と歩いていくタケル。


 突然、タケルの歩みが止まった。

「アリサ、ストップだ」

 タケルがアリサを抱きしめて岩陰に身を寄せる。

「えっ、また! 今度は何よ!」

「いいから黙って」

 それから、タケルは何も言わない。

 二人の呼吸の音だけが洞くつの暗闇に流れる。


 しばらくすると、何かが崩れるような音が洞くつ内に反響した。それには人間の悲鳴も混じっていた。

 身を震わすくらいの大きな音に「キャア」と言って、タケルに抱き着く。剣の達人も洞くつの暗闇の中では勝手が違っていた。


「そろそろ行けるかな」

 タケルがアリサから離れる。

「いったい何よ。何がどうなったか説明しなさいよ」

 アリサがランタンでタケルの顔を暗闇に浮かび上がらせる。

「あいつが登って行った斜面は崩れやすくなっているのを把握したのさ。だから、先に行かせて崩れるのを待っていたってこと」

 平静な表情のタケル。

「えっ、じゃあ、私たちのために山賊を犠牲にしたということなの?」

「ああ」


「山賊に注意してやれば、彼は助かったんじゃない」

 そう言って、あきれたようにポカンと口を開ける。

「姫様は相変わらずお人好しだなあ……。いいかい、一度崩れてしまった場所は、もう一度崩れる確率は少なくなるんだぜ。ダルクに露払いさせた方が合理的だろう」

「……ダルクを助けることはできないの」

「やつはペチャンコになっている。いくら何でも救助は無駄だな」

 そう言ってタケルは暗闇の先に歩きだす。

「ちょっと待ってよ」

 慌ててアリサが続いた。


 崩れたばかりの岩場を登る。

 二人は息を切らしながら必死に上を目指した。

 やがて、外の明かりが小さく見えてくるとアリサが先を急いで登りだす。

 次第に出口が大きくなり、アリサは外に飛び出した。


 それは山の中腹だった。

 広い空と広大な緑の景色。アリサは両手を挙げて、大きく何度も深呼吸をした。


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