表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/55

24,初夏


 初夏の渓谷。日増しに強くなる日差しは深い山々に降り注ぎ、森の中に熱気をこもらせていた。


 トルーナン城から東に10キロほどのところに深い谷があり、それには50メートルほどの長い吊り橋が掛かっていた。

 その吊り橋を挟んで東側にはガルガント国の大軍が控え、西側にはアリサ将軍が率いるトルーナン軍の1万人が敵を迎撃すべく陣を張っていた。


 両軍が対峙して3日が経過している。

 ガルガント軍のバウンティ将軍は4万人という兵の数に任せて、すぐにでも攻撃したいのだが、狭い橋を細長い陣形で突撃しても、渡りきった途端に集中攻撃を受けてしまうのが分かっているので進軍することができない。

 それはトルーナン軍も同じで、この場合は先に攻撃した方が不利になるのだ。


「じれったいわね」

 林の中の本陣で、向こうの吊り橋を見つめているアリサがつぶやいた。

「仕方がないさ」

 隣のタケルが答える。

「先に動いた方が負けという、両すくみの状態だからね。うかつに攻撃することはできない」

 そう言ってタケルは小さくため息をつく。

「それは分かっているけど、この暑さじゃあ味方の疲労も大きいわ……」

 アリサの額に一筋の汗が流れた。もう、季節は7月に入っている。その暑さにもかかわらず、彼女は白の薄いマントを羽織っていた。


 アリサは1万の兵を連れて吊り橋の手前に陣を構え、橋の向こう側にはガルガント軍の4万人が臨戦態勢で控えていた。

 比較してトルーナン軍の兵が極端に少ないのだが、森の中では大軍を動かすことが困難なため、狭い道に柵を作って防御するのなら補給が少なくて済む分、アリサの方が有利と言える。

 残りの兵はトルーナン王国の城塞都市に立てこもり、宿将のピエール将軍が統率していた。


 完璧な防御を考えるのなら吊り橋を落としてしまえば良いのだが、貿易相手であるシルバニア中央国家に通じる唯一のまともな通路なので、トルーナン王国としては絶対に遮断したくないのだ。

 また、ガルガント軍にとっても、重要な進行路であり補給ラインでもあるので切羽詰まった理由がない限りガルガント軍が吊り橋を壊すことはない。


 深い谷間に蝉の鳴き声がこだましている。

 突然、ガルガント軍に異変が起きた。橋を渡り始めたのだ。

 蒸し暑い昼過ぎのけだるさは、一気に緊迫した空気に変わる。


「迎撃準備!」

 アルベール副官が命令すると、トルーナン軍の左右の兵が弓を構え、前方の兵が槍を構えて前進した。


 ガルガント軍は金属の盾を構え、大声を上げながら迫ってくる。

 タケルが望遠鏡で見ると先頭にバウンティ将軍が確認された。

「じれているのは向こうも同じだったか。しかし、相変わらずバウちゃんは勇猛だよね」

 タケルの言うとおり、バウンティは将軍でありながら先陣を切って橋を渡り、トルーナン軍に向かってくる。後ろに続く近衛兵達も彼に触発され、先を争って剣を振るう。


「弓隊、攻撃せよ!」

 アルベールの命令が下ると、ガルガント軍めがけて一斉に矢を射る。

 多くの矢がバウンティに命中したが、すべて跳ね返されてしまった。

「聖なるギフト、ネミアの鎧ね……」

 アリサが戦闘場面を見つめながらつぶやく。

「バウちゃんは鎧の使い方を進化させたようだな。ネミアの特殊能力によって、鎧に覆われていない部分も守ることができるようになったらしい」

 そう言ってタケルが小さいため息をつく。


 トルーナン王国の政治顧問、シュバーセン校長はシルバニアの図書館から持ち帰った古文書を読み解き、聖なるギフトの特殊能力を解析していたのだ。


 ガルガント軍の猛攻は続き、橋のたもとに橋頭堡きょうとうほが作られそうになった。

「まずいな……」

 そう言ってタケルがアリサを見る。

「さあ、アリサ。やってみるか」

 タケルの言葉にアリサが眉をひそめた。

「本当にやるの?」

「向こうが聖なるギフトを使っているのなら、こちらも進化したエクスカリバーを使わなきゃ」

 タケルがニコリと笑う。

 アリサはうつむいて大きくため息をつき、白いマントを脱ぎ捨てた。

 そこに現れたのは、殺伐とした戦場に似合わないミニスカートのメイド服だった。


「ちょっと、このスカート短すぎない?」

 そう言ってアリサは黒いスカートのフリルを押さえる。

「ええ? いいじゃない。とても似合っているわよ、アリサちゃん。」

 ローレンツは胸の前で手を組み、体をくねらせる。その服は彼がコーディネートしたもの。彼は長身でトルーナン王国の軍服がよく似合っている。その本性を知らなければ、美形の若き将校なのかなと誤解するだろう。

「これも着けないとね」

 そう言ってアリサの髪に白いカチューシャを乗せた。

「これで完璧ね。さあ、やっちゃいましょー!」

 ローレンツは笑みを浮かべて激戦の橋を指さす。


「はあー……」

 アリサは長いため息をつくと、タケルが持っていたエクスカリバーを鞘から抜き、大きく振りかぶって精神を集中した。

斬空波ざんくうは!」

 かけ声とともに剣を振り下ろす。アリサの周りには、つむじ風が舞って短いスカートを花開かせ、白いパンティがもろ見えになる。

 剣から放たれた衝撃波は橋のたもと付近に命中し、バウンティを含む十余人を吹き飛ばした。


 何が起こったのかと動揺するガルガント軍。

 トルーナン軍の槍隊は、これを好機として前進する。

「よし、攻撃だ!」

 アルベールが命令すると、林の中に待機していた剣士達が一斉に飛び出して敵兵めがけて駆け出す。

「退却! 退却だあ」

 バウンティは起き上がって近衛兵に大声で命令を放つ。

 ガルガント軍は必死に防御しながら橋を渡って逃げていった。


面白いと思ったらブックマークや感想、評価をいただけるとありがたいです。

連載執筆の励みになります。

よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ