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21,いい感じの棒


 マクドリア軍はタケルがいる山を完全に包囲してから、しばしの休息を取った後に包囲網を狭めるようにして斜面を登っていった。



 一方、タケルは茂みの中に身を隠してマクドリア軍がやってくるのを待ち構えていた。

 林の中に小屋くらいの大きな四角張った岩があり、その陰に隠れてジッと待つ。ソロモンの指輪の空間把握能力によって、彼の百メートル以内に敵が入ってくれば察知できるのだ。


 しばらく待っているとマクドリア軍の兵達がやってきた。

 10メートルくらいの間隔で横一列に並び、深い草むらをかき分けて歩いてくる。トルーナン軍が相手なら、固まって山道を登ってくれば良いのだが、タケル一人を逃がすなという命令なので、兵を左右に分散して一列になり、大きな輪を作ってそれを徐々に小さくするしかない。


 タケルは身をかがめて草の中に身を隠した。

 マクドリア兵達はタケルに気がつかずに通り過ぎていく。

 タケルは、あたりに人がいなくなった後に、しばらく待機して、遅れてきた一人の兵を把握した。

 ゆっくりと立ち上がり、その兵に向かって歩き出す。大きな岩の陰になって視覚的には見えないのだが、指輪の能力によってタケルには相手の状態が明確に分かる。


 足下でパキッと音がした。

 枯れ枝を踏んでしまったのだ。アニメなどでは定番のイベントにタケルは顔をしかめて舌打ちをした。

 敵兵は音に気がついて剣を抜き、大岩の方に近づいてくる。

 タケルは立ち止まって敵をサーチして監視した。

 兵は時計回りに岩を回ってくる。それをタケルは把握して、同じく時計回りに進んだ。ちょうど岩の反対側の相対位置をキープして相手に発見されないように歩いた。


 一周半ほど回ってから敵兵は諦めて、山の上を目指して歩いて行く。

 タケルは地面に落ちていた、良い感じの棒を拾う。そして、音を立てないように後ろから近づいていった。

 相手が気配を感じて振り返ったとき、タケルは突進して棒を頭めがけて振り下ろした。


*


 マクドリア軍は包囲を縮めていき、全軍は山頂に集まった。

「やはり、トルーナン軍はいなかったか」

 そう言って副官のケビンは赤い髪をかき上げた。

 頂上付近は平らになっているが、地面は荒れていて所々に石が転がっていた。広場の端には大きな岩が立ち並んでいる。


「でも、タケルはいるはずよ」

 ベアトリスが悔しそうにつぶやく。

「タケルさんにはソロモンの指輪があります。それで兵の位置を知り、洞窟などに隠れてやり過ごしたのでしょう。たぶん、すでに逃げていると思います」

 エトラートが目を細めて言った。

「姉上、もう戦いは終わったのですよ。全軍を帰還させたらどうでしょう」

 願いを込めてベアトリスを見る。


 ケビンは同意してうなずいた。

「これからトルーナン軍を追いかけても間に合いません。撤退するしかないでしょう」

 帰ることを促されてベアトリスは顔をゆがめた。

 今回の会戦で、マクドリア軍は目立った戦果を上げていない。コスタリカ軍は逃がしたし、包囲しているときにトルーナン軍の騎馬隊に翻弄され、それを追跡したが取り逃がしてしまった。

 帰国して父のジェームズ王になんと報告するべきか……。悩むベアトリスであった。


 彼女が無言で考えているとき、向こうから声が聞こえた。

「ベアトリス将軍! タケルを捕らえました」

 その男の革の防具と兜には小隊長の印がある。彼は駆け込んできてベアトリスの前に片膝をついた。

「タケルを発見して捕縛しております。ご沙汰をお願いいたします、ベアトリス将軍」

 彼は下を向いたまま報告した。

「本当! よくやったわ。そいつをわたくしの前に引きずってきなさい」

 満面の笑みを浮かべるベアトリス。


「はっ」

 男は力強く答え、素早くベアトリスに近づき腰のビジブルを引き抜いた。

「何をするの!」

 慌てるベアトリス。

 剣を持ち、走ってその場から逃れる男。革の兜を脱ぐと、それはタケルだった。

「よお、ベアトリス。直接会うのは沼での対決以来だなあ!」

 笑いながらタケルは聖剣ビジブルを振った。


「タケルぅ……」

 ベアトリスは両手を握りしめた。

「俺の誘いに乗って、ノコノコと山の上まで登ってくるとは、とんだ尻軽女だ」

 口の端をゆがめてバカにする。

「その剣を返しなさい、タケル。それはあんたのような身分のいやしい者が持って良い剣じゃないのよ」

「ほう、言うじゃないか。すぐに服のボタンが外れるベアトリス姫」

 ベアトリスが片目を細める。

「そいつを殺しなさい。細切れにしてやるのよ!」

 兵達がタケルに駆け寄った。

「待てぃ! 動くんじゃない」

 広場にタケルの声が響く。その語気に兵達の動きが止まった。


「近づいたら、この聖剣ビジブルを折るぞ」

 タケルは剣を高く掲げた。

「待ちなさい! それはマクドリアの国宝なのよ。そんなことをしたら、ただじゃ済まないわ」

 ベアトリスは困惑の表情を浮かべる。

「それはそれは大した剣だ。でも、普通の剣と同様に鉄で作られているんだよ。だから、エクスカリバーと違って刃こぼれはするし、折ろうと思えば折ることもできる。シュバーセン校長に聞いたんだよね」

 タケルは剣で大きな岩をペシペシと叩く。

「やめなさい!」

「やめてください、お願いします……だろ、お姫様」

 勝ち誇ったタケルの顔。日は暮れて山あいに太陽が沈もうとしていた。


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