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18,大剣舞う


 アリサとタケル、それにローレンツと近衛兵は百騎余りの騎馬隊でマクドリア軍の背後を襲った。


 予想もしていなかった攻撃に逃げ惑うマクドリア兵達。アリサは背中のエクスカリバーを抜くと、敵軍の中に走り込んだ。

 アリサは近くの兵達を大剣でなぎ倒すと、馬から飛び降りて敵に襲いかかった。

 逃げ腰のマクドリア兵はアリサによって背中を袈裟懸けさがけに切られ、剣で向かってくる兵は剣をたたき落とされて血しぶきを上げる。鬼神のようなアリサの攻撃で、周りの雑草は赤黒く染められた。

 心に蓄積していた無念を聖剣に込めて叩きつけるアリサだった。


 副官のアルベールが率いる近衛兵も精強だった。アリサを囲むように進んで、敵を排除していく。マクドリア軍は、砂糖に水をかけるがごとくに浸食されていった。

 タケルの作戦が図に当たったのだ。



 トルーナン軍が陣を張っていた丘のふもとにはガルガント軍の1万が待機している。

 それでタケルは作戦を考えた。

 トルーナンがマクドリア軍の背後を攻撃すれば、ガルガント軍が我が軍の後ろから襲ってきてマクドリア軍との挟み撃ち状態に陥るだろう。ならば、騎馬隊を編制してマクドリア軍を襲う。そして、本隊はトルーナン王国に帰還させるのだ。

 そのとき、ガルガント軍は本隊を追撃はせずに丘の上に留まるはず。なぜなら、追えば1万の部隊が単独で1万5000のトルーナン王国と戦うことになるので戦闘は不利になる。戦いに慣れている将軍ならば無駄な動きはしないだろう。そのようにタケルが予想し、そして、その通りの結果になった。


 アリサの騎馬隊がマクドリア軍を目指し、トルーナン軍の本隊が母国に向かうと、ガルガント軍は丘を登ってきた。しかし、自分の提案した防護柵によって進行は阻まれ、その柵を撤去するのに戸惑うはず。

 ガルガント軍がもたついている、そのすきに騎馬隊でマクドリア軍に一撃を加えて溜飲を下げた後、速やかに撤収する。その混乱に乗じてコスタリカ軍を逃がすこともできるだろう。そのようにタケルは提案したのだ。



 一撃離脱してトルーナン王国に帰還する。

 タケルは、そのように熟知させたはずだがアリサは止まらない。一度火がついた復讐心は容易に消えることがなく、目に炎を揺らめかせて敵兵を殺しまくった。


「ベアトリス! ベアトリス将軍はどこなの! トルーナン王国のアリサ将軍が会いに来たわよ。正々堂々と出てきなさいよ」


 無人の地をゆくがごとくに敵陣深く切り込むアリサ。革の防具は血まみれだった。

 曇天の空模様。森の湿気と土埃、それに血しぶきの臭いが立ちこめている戦場。その舞台の中央でアリサは舞うように大剣を振るっていた。


 タケルは馬から下り、斜め上に向かって弓を引き絞った。

 聖なるギフト「ソロモンの指輪」の空間把握能力により、視覚に頼らずに前方をサーチしてベアトリスを探す。そして、間もなく80メートル先に目的の対象を探し当てた。


「あいつはどうして裸なんだ? まあ、いいか」

 タケルは距離と風を計算して放物線を想定し、矢を放つ。その弓矢はタケルが予想した軌跡をなぞって飛んでいった。



 全裸にマントを着て、呆然としているベアトリスに向かって矢が飛んできた。

「キャア!」

 矢はマントを貫いて地面に突き刺さる。

 ベアトリスは矢で止められたマントを必死に引っ張るが、なかなか抜けない。

「ご無事ですか、姉上!」

 エトラート少年が走ってきて、矢を引き抜いた。


 その直後、ベアトリスの足下に2本目の矢が突き刺さる。

「一体、何なのよ!」

 後ろ逃げようとして、石に引っかかり尻餅をついた。

「姉上! 木の陰に隠れてください。たぶん、これはタケルさんの指輪による攻撃です。空間を立体的に把握して正確な射撃をしているのですよ」

 そう説明して、エトラートは姉を急いで大木の方に引っ張っていく。すぐ後に矢が飛んできてベアトリスがいた場所に刺さり、ビーンという振動音を放って震えた。


「タケルかあ! あいつのせいで、どれほどの恥をかいたか……」

 下着をつけながら顔をゆがませるベアトリス。

「ケビン! 全軍反転して迎撃よ。背後のタケル達を包囲して皆殺しにしてやるわ」

 副官のケビンは、乱れた赤い髪で困惑の表情を浮かべた。

「どうしたの! 全軍、向きを変えてトルーナン軍を攻撃しなさい」

 しかし、ケビンは何も言わずに横を向いて考えていた。

「姉上。全軍を反転したら、せっかく完成した包囲網が壊れてコスタリカ軍を逃がしてしまいますよ」

 そう言ってエトラートは下着姿のベアトリスに軍服を渡し、説明を続けた。

「襲ってきた敵は少数だと思います。だから、予備部隊をトルーナン軍に投入して、あとは包囲攻撃を続行すべきかと思います」

「なんで少数だと分かるのよ」

「全軍でやってきたならば、こちらに発見されていたでしょう。少数の騎馬隊でやってきて一撃を加え、こちらが混乱しているときにコスタリカ軍を脱出させる魂胆こんたんなのですよ。そのタケルさんの陽動作戦に乗る必要はありません」

 エトラートの言葉にケビンは深くうなずく。


「でも、でも……」

 軍服のボタンを留めながらベアトリスは悩む。

 そのとき、矢が飛んできて、彼女が隠れている木に小気味よい音を立てて刺さった。ベアトリスはビクッと震える。

「ダメよ! タケルだけは許せない」

「姉上……」

「ケビン副官! 全軍反転! 敵を包囲して殲滅するのよ」

 ケビンは小さくため息をつき、全軍にベアトリスの命令を伝えた。


 彼もエトラートに同意していたが、その後の局面を考えるとコスタリカ軍を逃がした方が良いかなと考えた。

 ガルガント軍の最終目的は大陸の制覇である。それは今までの行動から推察して明白だ。つまり、コスタリカ軍を破った後の矛先は、我がマクドリア王国ということもあり得るのだ。ならば、今回はコスタリカ軍を生かしておいたほうが良いだろう。


 マクドリア軍は目標をコスタリカ軍からトルーナン軍に変え、タケル達を包囲すべく両翼を前進させた。


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