13,戦法
「まず、私が考えた作戦を説明する」
ブルーノ将軍はタケルを見据えたまま口を開いた。
「小娘の……あ、いや……アリサ将軍の率いる1万5000を左翼とし、我らコスタリカ軍の2万を本陣として中央に位置する。そして、マクドリア軍の1万5000を右翼としてモランタン高原に半包囲陣を作る」
一つ大きく息をしてからブルーノは説明を続ける。
「斥候によるとガルガント軍は森を進んでいる。後、10日もすればモランタン高原に出てくるだろう。その出口に扇形の陣形を作り、出てきたガルガント軍を順次、各個撃破するのだ」
どうだと言わんばかりにブルーノは大きくは鼻息を吐く。
タケルは腕組みをして首をかしげた。
「ちょっと、よろしいですか」
タケルが小さく手を挙げて発言の許可を要求。
「何だ、成績優秀な頭でっかち」
「ブルーノ将軍! 同盟国の使者に対して礼儀を失していますよ」
壁際のアレクが顔をしかめて注意する。
「ああ、悪かったな。タケルだったか……。言いたいことがあれば言ってみろ」
ブルーノ将軍がぶっきらぼうに意見を促す。
「将軍の作戦案は基本に忠実でよろしいのですが、ガルガント軍が素直に出てくるとは限りません。向こうも先遣隊を出しており、我らが出口をふさいでいることを知るでしょう。それで、迂回して森を出た後に我らの後ろに回ることが考えられます。そうなったら、我ら同盟軍にとって不都合なことになると思うのですが」
タケルが姿勢を正して冷静に言った。
ブルーノ将軍が「うーん」とうなって腕組みをする。
しばらく考えて腕組みを解く。
「それも一理ある……。ならば、高原の中央に平凡な横陣を敷くことにしよう。こちらは5万人、敵は3万だ。正面切って戦っても十分に勝機がある」
横陣とは、歩兵をずらっと横に並べたものだ。後ろに回られないよう、騎兵を左右の端に配置することが多い。
「その作戦もよろしいのですが、もっと良い方法が考えられます」
「何だ、それは!」
ブルーノ将軍は、タケルの意見は聞くべき価値があると認めた。しかし、自分の意見に逆らうような事はうっとうしくもある。
「高原の南側に小高い丘があります。我らは、そこに全軍で陣を張って敵を待つのです。地形に高低差があるので我が軍が有利になり、また、敵が長距離を進行してきて疲れている状態を休息して体力のある味方が攻撃することになります」
「しかし……それではガルガントの侵攻路から離れているではないか。こちらを無視してトルーナンに行ってしまったらどうするのだ」
またブルーノ将軍が腕組みをする。
「ガルガントが高原に出て、トルーナンを目指して森の中に入ったら、3万の半数が入ったところで残りの1万5000を攻撃すれば良い。敵は2万弱、こちらは5万人。勝利は疑いようがありません」
タケルの冷静な分析に玉座の王が大きくうなずく。
説明を続けるタケル。
「敵がトルーナンに行った後、高原の中央に移動してガルガントの補給線を断つという方法もあります」
「……それで、トルーナン王国はどうするんだ」
ブルーノ将軍が大きな目を細めて聞いた。
「トルーナンの城塞都市は百戦錬磨のピエール将軍が守備しております。ちょっとやそっとでは落ちることがありません」
将軍は「ふむ」と言って黙り込む。
「3万の兵は補給が大変です。トルーナンへの細い道を進んでいるうちに食料が足りなくなり、腹をすかして戻ってくるでしょう」
「なるほどな……」
ここまで来たらブルーノ将軍はタケルの才覚を認めるしかない。
「ガルガント軍はよく訓練されており、戦闘経験が多い精強な兵がそろっております。兵数が有利であっても、地の利は持っておくべきと考えます」
「うん、タケルの言うとおりだ」
アレクが同意した。
場の雰囲気を見て王が決裁する。
「よし! では、タケル殿の意見を採用することに決定する。我らはモランタン高原の南側の丘に陣を置くことにしよう。マクドリアには私の方から連絡しておく」
体面を気にせず、合理的に考えるコスタリカ王であった。
謁見室の皆は王に対して深くお辞儀をした。
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