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11,ガルガントの侵攻


 トルーナン城塞都市の中央にあるトルーナン城。その会議室には重苦しい空気が満ちていた。


「どうしたものかのお……」

 議長を務めるクリストファー王は、曇った顔でつぶやく。

 長いテーブルの端に座っている王の隣にはシュバーセンが座っている。彼はシルバニアを脱出した後、その深い見識を買われてトルーナン王国の政治顧問になっていた。


「例の作戦がまずかったのではないのですか」

 そばかす顔の第二王女、メリッサが言うと会議室にピリッとした緊張が走る。

 例の作戦とは2週間前に実行されたシュバーセン救出作戦のこと。まさか、本人を目の前にして実名を出すことはできないので、それを伏せ、あからさまに嫌味を放つ。


「いまさら言っても……せん無きこと事ですわ」

 白いドレスを着た進行役のクリステルが取り繕う。ふくよかな体をした美人だが、今は肩身が狭い。


「その通りですな」

 太った体のピエール将軍がふんぞり返って答えた。

「起こってしまったことは仕方がない。まずは、ガルガントのトルーナン侵攻をどうするかが問題だ」

 ピエール将軍の言葉に会議室に集まった武官や文官はうつむいた。


 シュバーセンをトルーナンで保護した後、シルバニアで諜報活動をやっていたマリアが帰ってきて報告した。

 それによると、ガルガント軍は2万の兵をシルバニアに残し、残りの3万人の兵でトルーナン王国に侵攻するという。宣戦布告などはなかったが、侵攻ルートから言って目標はこちらに間違いはない。


 アリサは、あんたのせいじゃないの、と言わんばかりに後ろに控えているタケルに流し目を送った。

 タケルは小さく肩をすくめ、そんなことはないよ、というようにごまかす。


「当初の計画通り、防御に徹したらどうでしょうか」

 と、クリステル。

「それが良いですかな……」

 ピエールが同調する。


 トルーナン王国は大陸の西の奥に位置していた。王国は深い森や谷に囲まれ天然の要害になっている。また、道は細く、つり橋を通らないと往来はできない。戦争物資の補給には多大な労力が必要だ。


「ちょっとお待ちください」

 小さく右手を挙げて発言の許可を求めたのは、自治領主のグレゴリーだった。

 それは度の強い眼鏡をかけた小太りの男。彼は立ち上がって話し出す。


「もし、ガルガントがトルーナン王国を包囲したならば他国との貿易ができなくなってしまいます。生活物資は欠乏し、物価が高騰するでしょう。トルーナンのような小国……あ、いや……大国でないものがガルガントのような大国に歯向かえるものでしょうか。私のような者が言うべきことではないと思いますが、愚考を口に出させていただきました」


 グレゴリーはトルーナンのさらに西にあるストラスタ地方を治めている。彼の領地はクリストファー王のお情けで自治を任されている状態なので、いつもグレゴリーは王に媚びている態度を示す。


「それは何とかなるじゃろう」

 シュバーセン顧問が重々しく答えた。

 彼は80歳を超え、長い髪は真っ白になっている。春先なのに暑くないのかな、と皆が心配するような厚手のガウンをまとっていた。


「まず、便乗値上げを禁止する法令を出せばよい。そして、北のビアンカ君の国……ベルナール公国に頼んで三角貿易を行えばよいのじゃよ」

 シュバーセンは長いひげをさすりながら説明。


「三角貿易ですか……」

 グレゴリーが首をかしげる。

「トルーナン産の農作物や鉱物資源をベルナール公国に輸出して、それをシルバニアに輸出すればよい。輸入はその逆だな……。多少の手数料は取られるかもしれんが、それならば生活物資がなくなって国民が困窮することはないじゃろ」

 淡々とした口調のシュバーセン。


「ガルガントから横やりが入りませんかね」

 心配そうにグレゴリーが言う。

「ガルガントも武器などを作るにはトルーナンの鉄鉱石が必要じゃ。見て見ぬふりをするしかない。問題ないじゃろう」

「そうですかねえ」

 グレゴリーは納得していない。


「戦争と経済は密接な関係がある。しかし、同一ではないのだ。いくら憎い敵でも国家に必要な物なら、あえて敵国から買わなければならない。右手で殴り合いをしていても、テーブルの下では左手で握手をしている。それは変のことでないのじゃよ」

 それを聞いてクリストファー王はウンウンと言ってうなずく。


 黙って会議の行方を見ていたタケルはアリサに近寄って背中をつついた。

 振り向くとタケルが何か言いたそうだったので、アリサが手を挙げる。

「相談役のタケルの意見を聞きたいのですが、よろしいでしょうか」

「いいでしょう」

 クリステルが即座に許可した。


「発言の許可をいただきまして、ありがとうございます」

 タケルは姿勢を正した。

「籠城して敵の疲労と消耗を待つというのは有効な作戦ではありますが、それは最終作戦であります。もし、万が一にでも失敗すればすべて終わりということになる。だから、その前に一戦するという方法もあるでしょう」


「ガルガントと真っ向から戦うというのか」

 ピエール将軍が睨む。彼はタケルのことを好きではない。

「はい、直接対決します。しかし、トルーナン王国が単独でということではなく、北のベルナール公国と南のコスタリカ王国、その両国と共同で対応するのです」

 タケルは冷静に説明した。


「ガルガントの横暴を快く思っていないのは我が国だけではありません。ガルガントの最終目的は大陸の制覇であることは今までの行動から見て明らかなこと。コスタリカ王国などは、何とか帝国の侵攻を止めようと思っているはずです」

「つまり、ビアンカとアレク……じゃない。ベルナール公国、それにコスタリカ王国と同盟を結ぼうということね」

 アリサが上半身をひねって後ろに立っているタケルを見ながら言った。


「その通りです。アリサ将軍」

 タケルが大きくうなずく。

「我が国が1万5000人を用意し、ベルナール公国から2万、それにコスタリカから2万の兵を出してもらえれば合計で5万5000。3万のガルガントに十分対抗できます」

 タケルの説明を聞いて皆がうなずいた。


「では、同盟を結ぶための使者としてアリサ将軍に行ってもらいましょうよ」

 メリッサがニヤニヤと笑いながら言った。

「ビアンカ王女もアレクサンドル王子もアリサのご学友ですもの、きっと話がうまく進むと思うわ」

 メリッサの発言にピエール将軍が大きく首を縦に振る。


「それに迎撃軍の司令官もアリサ将軍にお願いしたいわ。だって、ピエール将軍は城にとどまって、この国と王様を守らなければならないのだもの」

 その無茶な依頼にアリサは身を震わせてうつむく。彼女は将軍になったばかりで、そんな大規模な戦闘を指揮した経験はない。


 それを見てタケルが声を上げた。

「了解いたしました! このタケル・テンドウ、今までの恩顧に報いるためにもアリサ将軍とともに任務を成功させる所存であります」

 アリサが泣きそうな目で振り向く。

 タケルは「大丈夫だよ。なんとかなる」というように笑ってウィンクした。


 視線をアリサからメリッサに移すと、彼女は意地悪そうに笑いを浮かべている。ああ、このガリガリのそばかす王女は俺たちをこき使うつもりだな、とタケルは確信した。


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