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10,バウンティとの決闘


 高まってきた雰囲気の中、タケルがトコトコと近寄っていった。

「あのさあ、バウンティ君。ちょっといいかなあ」

 にこやかな顔でタケルが問いかける。

「何だ! 腰巾着」

 大剣を構えたまま、吐き捨てるようにバウンティが言う。前から彼はタケルことが嫌いだった。

「ガルガント大帝国のバウンティ大将軍とあろう者が、女に勝っても自慢にならないだろう。俺が助太刀として参加していいかなあ……」

 バウンティはチラリとアリサを見て考える。


 確かに女子に勝利しても、とやかく言うやつがいるだろう。剣の達人と言えどもアリサ姫は18歳の女の子。決闘に勝っても、それは当然なことだと陰口をたたくやつが出てくる。第一王子として武人の誉れとは言えないか……。だが、二対一で勝ったのなら父上にも胸を張って報告することができる。


「分かった。タケルの好きにしろ。そのこざかしい頭をたたき割ってやるから、いつでもかかってこい」

 士官学校において、剣の試合でタケルは一度もバウンティに勝ったことがない。タケルが参戦してからといって物の数ではないとバウンティは考えたのだ。

「ああ、そうですか。バウちゃん、ありがとね。じゃあ、続きをどうぞ」

 そう言ってタケルが下がっていく。


 バウンティは大きく深呼吸して、弛緩した気分を変えた。

 対するアリサは、ゆるりとエクスカリバーの柄を握り、腰を落として力をためる。

 目から放電するかの如く二人は睨みあい、緊張感が決闘の場に満ちた。


 瞬間、テレポートしたかの如くアリサがバウンティに近づき、満身の力を込めて剣を振り下ろした。

 大きな金属の打撃音が響いて、陽光に照らされた場に剣の火花が散る。

 一刀目は剣で防がれた。しかし、アリサは大剣の重量をものともせずに剣を切り返して相手の横っ腹にぶち当てる。

 大剣の打撃力によりバウンティは数歩下がった。しかし、聖なる鎧「ネミア」はびくともしない。


「エクスカリバーの直撃でも平気だなんて、さすがネミアだわ。試し切りでは、どんな鎧でも両断したんだけど」

 少し呼吸を乱してアリサが称賛する。

「本気で俺を殺すつもりだったのか。こえー女だなあ……。でも、まあ真剣勝負だから当然か」

 そう言ってニヤリと笑うと、覚悟を決めて今度はバウンティが仕掛けた。


 上段からアリサの頭めがけて大剣を振り下ろす。

 それを打ち払ってバウンティの顔面に突き出した。すんでのところ、それを剣で防ぐ。体勢を整えてバウンティが剣を何度も振り下ろして攻撃した。

 重い剣がひょうのように振ってくる。その連続攻撃をアリサは必死に防御した。

 彼女は一度、バックステップで間合いを外した後、相手の前に潜って昇竜のごとくエクスカリバーを振り上げた。


 ガキン!

 バウンティの剣は二つに折れて宙を舞った。

 荒い息で睨みあう二人。

「俺の負けか……」

 そうつぶやくバウンティの声をかき消すようにアリサが大声を出す。

「武士の情けよ。予備の剣を使いなさい! こんなんじゃ、決着がついたとは言えないでしょ」

 アリサが剣を下げた。

「あんたは本当の武人だよな。女にしておくのが惜しいぜ」

 そう言ってバウンティは馬に取り付いておいた予備の剣を抜く。

 そうして、また二人は対峙した。


 勝負に勝ったので試合をやめてもよいはずだが、遠くに控えているバウンティの副官が攻撃してくるという懸念がある。

 バウンティは約束を守ってシュバーセン校長を捕縛することはしないだろう。しかし、副官が指示に従うとは限らない。この場合は確実に時間稼ぎすることが重要なのだ。


「あのさあ、ちょっといいかなあ」

 トコトコとタケルが近寄っていく。

「何だ、タケル!」

 うざったそうに顔をしかめるバウンティ。

「宴もたけなわでございますが、俺も攻撃していいかなあ」

 ニコニコ顔でタケルが参戦の許可を求めた。

「いつでもかかってこいと言っただろうが! さっさと来い。そのうっとうしい首を切り落としてやる」

 目を細めて虫を見るような視線をタケルに投げてくるバウンティ。


「あっ、そう……。じゃあ、遠慮なく」

 タケルは手に持っていた、こぶし大の布袋をバウンティに投げつける。

 反射的に剣で切ると、破れた袋から黒い粒のようなものがバウンティに降りかかった。

「うわっ、何だ、目つぶしか。相変わらずの卑怯者め」

 バウンティが顔にかかった粒を振り払う。

「褒めてくれてありがとう。もう一丁、いくよお」

 タケルが布袋を放り投げた。

「ちっ」

 舌打ちをして飛んできた袋を切ると、また黒い粒がネミアの鎧に降りかかってきた。


「コノヤロー!」

 バウンティが剣を振り上げてタケルに向かってくる。

 しかし、その動きは途中で停止した。

 剣を振り上げたままで立ちすくむバウンティ。

「あー! イテテテテテ!」

 叫んで、バウンティは鎧の上から体をかきむしる。そして、草の上を転げまわった。

「ぐおー!」

 タケルは苦しんでいるバウンティの上に馬乗りになって、鎧を外し始めた。ローレンツも近寄ってきてタケルを手伝う。

「さあー、脱ぎ脱ぎしちゃいましょうね」

 タケルは器用に鎧のひもや金具を解き放っていく。

「チクショウ! タケルぅ、俺に何をした」

 苦悶の表情で問う。

「さっきの黒い粒はマラブンタという軍隊蟻さ。攻撃的な蟻でさあ、それが鎧の隙間から入って体を噛みまくっているんだよ」

 説明しながら鎧をすべて外した。下着姿になったバウンティは上半身を起こして、体を這いまわっている蟻を払い落とす。

「図書館の裏山に巣を作っていてね、それだけの数を集めるのは苦労したんだぜ」

 タケルは蟻を払いのけるのを手伝いながら言った。


「バウンティ将軍! 大丈夫ですか」

 遠くで待機していた副官のマンフレートが走ってきた。

「動くな!」

 胃袋を直撃するようなタケルの大声に、副官の動きが停まる。

 ローレンツは疲れて力をなくしたバウンティを四つん這いにさせ、後ろから白いパンツを両手でガッシリと握った。

「動くんじゃない! 動くと将軍のケツに私のモノを突っ込んじゃうわよーん」

 ローレンツの脅しにマンフレートと部下たちは口を開けたまま固まってしまう。

「タケル、何をやらせているんだ! こいつにバカなことをさせるな」

 バウンティは焦って逃れようとするが、激しい戦いのせいで腰に力が入らない。

「さあ、将軍のケツを傷モノにしたくなければ、全員下がるんのよーん」

 そう言ってローレンツがバウンティの尻を嫌らしくなでまわす。


 あまりにも意外な出来事にエラーを起こしていたマンフレートの思考は、ようやくリセット信号が発生し、脳を初期設定していく。

「そ……」

 マンフレートは腰の剣を抜いた。

「それがどうしたあ! 全員、かかれー!」

 副官を先頭にしてガルガントの兵が突撃してくる。

「いいんでちゅかあ! 本当に突っ込んじゃいまちゅよー」

 興奮するとローレンツは幼児言葉になる癖がある。

 ローレンツは、バウンティのパンツを下ろしてペロンとケツをさらした。大きくて筋肉質の尻。

「バカ、やめろ、やめてくれ、タケル。おい! マンフレート。止まれ、止まるんだあ!」

 だが、バウンティの命令を聞かずに突進してくる副官。

「いいんでちゅかあ。上官のケツがとんでもないことになりまちゅよ」

 美青年と言って良いローレンツの整った顔が、嫌らしい笑いでゆがむ。


「もう、いい加減にしなさいよ! さっさと撤退するわよ」

 呆れ顔のアリサがタローレンツの腕を引っ張っていく。バウンティは、四つん這いのまま逃げて行った。

「アリサ様、早く!」

 副官のアルベールが馬を引っ張って来る。

 アリサとタケル、それにローレンツは馬に飛び乗ると、急いで森の中に走りこんだ。


  *


 タケル達が図書館に着くと、書物は全て荷馬車に詰め込んで出発した後だった。

「さあ、馬車に追いついて、その後ろを守るわよ」

 図書館に残っていた兵たちと一緒にシュバーセンを追いかけた。


 しばらく走って、馬車に追いつく。

 ガルガントは追撃してこない様子なので、速度を落としてゆっくりと進むことにした。


 アリサとタケル、ローレンツは馬を並べて、馬車の後ろを歩いていく。

「ねえ、あんた。いい加減にしなさいよ。事態を悪い方に引きずらないでよね」

 横目でローレンツを見るアリサ。

「そんなことはないよ。あの場合は、ああした方がいいかなと思ってさ」

 タケルが弁護する。

「はあ?」

「動くとバウンティを殺す、と脅したら事態は深刻になって、後にしこりを残すことになる。でも、ケツに突っ込んでやるということなら、冗談で済ませることができるだろう」

 さわやかな笑顔のタケル。ローレンツが、ウンウンとうなずく。

「……そうかしらねえ?」

 相手はもっと怒るんじゃないかしら、とクエスチョンマークを頭の上に浮かべて悩むアリサだった。


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